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12/26 週刊少年ジャンプが描くヒーロー(平成後期~令和)

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  • toyo
  • 2019/12/26 04:17

これは「鬼滅の刃」にハマった大人が書く素人ヒーロー論です。本日は第4回目の記事をお届けします。

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過去の記事はこちらです。

 

書いてるうちに自分の首を絞めるような難しい領域に足を踏み込んでしまい、全然先が書けずに苦しんでおりました。。。表象文化論とか真剣に勉強したいと思いました。

以下、悩みに悩んだアウトプットをご覧くださいませ。

前回はドラゴンボールとワンピースをもとにヒーローの姿を振り返りましたが、その2作品がもはや旧世代に向けたヒーロー漫画であるなら、新世代に人気の「進撃の巨人」や「僕らのヒーローアカデミア」は、どんな新しいヒーローを描いているのだろうか?というのが今回の記事のスタートだ。

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【目次】
1.強すぎる敵。直面する絶望
2.ヒーローは弱くなったのか?
3.ヒーローが職業になった社会
4.ヒーローは悩む存在である

1.強すぎる敵。直面する絶望


人間を喰う巨人。特殊な個性を持つヴィラン。首を切り落とさないと死なない鬼。

これらは「進撃の巨人」「僕のヒーローアカデミア(以下、ヒロアカ)」「鬼滅の刃」の敵を表現した内容です。これらに共通するのは、強烈に敵が強いということです。

敵がかなり強いというのは、昨今の少年漫画の傾向かもしれない。昔の勧善懲悪型ヒーローであれば、敵がどんなに強かろうと最終的にはヒーローが敵を打ち破って勝つということが視聴者(読者)に保証されていたから、敵が強くてヒーローが苦しめられるというシーンはあったとしても、視聴者(読者)は安心して読んでましたよね。それに覚醒したヒーローの強さは圧倒的でした。覚醒したら一気に敵をタコ殴りにしていたように思います。

以前も敵が弱かった訳ではないだろうけれど、特段強い敵がいたという気もしないんです。しかし最近の漫画では「それにしたって強すぎじゃないか?」と思わせるくらい敵が凶暴に描かれているのはどういった背景なのだろう。

絶望する

進撃の巨人を初めて読んだとき、一番衝撃を受けたのは「こんなにも簡単に人が喰われてしまうのか」ということ。何度見ても怖くないですか?怖いよね。

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そもそも、人が死ぬというのはどの漫画でも描かれていたんだけど、海外ドラマの影響なのか結構グロテスクに描かれる漫画が増えましたよね。少年少女が読む漫画においてここまで露骨に「死」が描かれていただろうかと思うくらい、進撃の巨人のそれは衝撃的で本編中ではエレンが絶望したように、読者の私も絶望した。

「ヒロアカ」だって、多くの人が個性を持って生まれてくるにも関わらず主人公の緑谷出久は無個性で生まれてきてしまった。それは、オールマイトに憧れる少年にとってはまさに事件で、緑谷はそんな絶望を幼少期に経験してしまっている。

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決して恵まれた環境ではない、むしろマイナスの状況からスタートし、そこから立ち上がっていくヒーロー譚が多いように思う。彼らヒーローは様々な悩みを抱えながら進むのだが、「立ちはだかる敵が異常なまでに強力に(暴力的に)描かれている点」と「マイナススタートという点」に平成後期から令和時代のヒーロー漫画の特徴を感じる。

2.では、ヒーローが弱くなったのか?

答えはNoだ。相変わらずヒーローは強い。それよりは、敵が本来の強さを取り戻したというべきだろう(漫画作品としてはストーリーにより深みが増したといえる)

ここで、新時代のヒーローの描かれ方について、まずは2015年から連載開始した「僕のヒーローアカデミア」を代表作として深く掘り下げていきたいと思う。

 

そもそもどんな作品なのか整理しておきましょう。

“個性”という特殊能力を持つ超人社会が舞台

大まかなあらすじを共有しておきたい。

人々が生まれつきなんらかの特殊能力「個性」を持っている世界。個性を使った犯罪者「ヴィラン(悪役)」と、ヴィランから人々を守る「ヒーロー」が日夜戦っている。なんの個性も持たず生まれてきた無個性の少年・緑谷出久(イズク)は、個性社会においては非常に稀な存在である。無個性でありながら強くヒーローに憧れる出久は、平和の象徴と呼ばれるNo.1ヒーロー「オールマイト」に憧れ、ヒーロー養成学校の名門・雄英高校を目指す。出久は、そのヒーローとしての資質をオールマイトに見出され、彼の力を受け継ぐことになる。

3.ヒーローが職業になった社会

ヒーローが職業として描かれる日がきた。そんなに珍しいことでもないのかな、昔にもそんな漫画があったのだろうか?歴史を知らないまま語るのも心苦しいが、ここが少年漫画における一つの分水嶺になったと私は思う。

その理由は、ヒロアカが、

『ジャンプ』によって「ジャンプのニューヒーロー」と持ち上げられ、「ジャンプ的価値観」の正当な遺伝子を持つことを公認されている。(衛藤、2018)

ということと大きく関係している。「ドラゴンボール」や「ワンピース」「ナルト」のような作品の系譜を継ぐ王道ジャンプ漫画という評価を得た作品が、ヒーローを職業として描いたことにヒーローの捉え方に変化があったと私は思う。衛藤(2018)は論文の中で作者・堀越氏がアニメ化を手掛けた長崎健司監督から「本作はジャンプ王道でありながらどこか新しい」と評したことに対して、堀越本人は「その新しさ」について上手く答えを出せなかったと書いており、衛藤が代わりに「その新しさ」をこう示している。

筆者の見るところ、『ヒロアカ』が「ジャンプ的価値観」にもたらした「新しさ」のうちもっとも重要なものは、「王道」の枠内で「ヒーロー」を普遍性の高い宗教的倫理に突き動かされる救済者の象徴として明確に位置付けたことである。(衛藤、2018)

衛藤が指摘するその新しさの詳細についてはその論文を読んで頂くとして、私は「ヒーローをその束縛(呪縛)から解放した」ということを追加したい。これまでの「強くて、カッコよくて、・・」のようなテンプレ的ヒーロー観から脱却し、多様なヒーローの描かれ方が可能になった。映画「ダークナイト」もその1つの例といえる。

どんな束縛(呪縛)なのか?

それは「ヒーローはこうでないとならない」という典型的な描かれ方からの呪縛だ。

典型的なヒーロー、しかもアメコミ風の”Theヒーロー”のオールマイトがヒロアカには存在するのだが、一般人の前では筋骨隆々のヒーロー姿なものの、戦闘時以外はヒョロヒョロのガリガリな姿で描かれている。

出久の師匠オールマイトの筋骨隆々たる風体は、実は社会を安定させるための「平和の象徴」として振る舞うべく、無理をして維持されている(『ヒロアカ』第1巻第1話)。社会のほうも、一個人のやせ我慢によって安心を得ているという頼りなさである(衛藤、2018)

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ヒーローが本来表に出さない部分を詳細に描く漫画として、ヒーローがカッコイイだけの存在ではないと描いている点に「ヒロアカ」の面白さがある。

別な見方をすれば、「ヴィラン」として活動している者たちも中には活かし方によっては人を救うための特殊能力に恵まれた者たちもいたりする。しかし、善として振る舞わずに悪として振る舞っている。
つまり、ヒーローになっていてもおかしくない者たちがヴィランとして社会に敵対するという点も、善と悪はコインの表裏のような関係で一歩間違えばヒーローにもヴィランにもなり得るという社会の不安定さを浮き彫りにしている点が興味深い。

4.ヒーローは悩む存在である

そんな、善悪どっちに転んでもおかしくない世界だからこそ、それに高校生という思春期の生徒たちだからこそ、ヒロアカの登場人物たちは悩みを抱えて生活している(ヒーロー活動を行っている)。中には個性が無いと悩む者がいれば、親との関係に悩む者、友の成長スピードに焦りを覚える者。我々が抱えていても全くおかしくない悩みを、ヒロアカではヒーローたちが抱えている。あー、彼らも人間なんだなと思う瞬間。

人口の8割が「個性」と呼ばれる超人的能力を保有する特殊社会では(2割は無個性で普通の人間、主人公の緑谷出久はこの2割に入っていたことになる)、超人的な能力を持っているだけではヒーローとは呼ばれない。ヒーロー育成のための教育機関で専門課程を学び、プロヒーロー免許を得て初めて職業ヒーローを名乗ることができる。免許取得後にはヒーロー事務所に所属する。現実社会における「芸能事務所」のようなものだろうか。ヒーロー事務所にはそれぞれカラーがあり、愚直に人助けを志向する事務所もあれば、テレビやマスメディアでアイドル扱いされるような事務所まで存在する。

このような環境下においては、「他のヒーローとどう差別化するか?」が重要なポイントになるだろう。それを考えないことにはヒーローとしての仕事が無くなってしまう状況もあるだろう。
個々人は自分の能力の向上だけでなく、社会におけるポジショニング、世間へのアピール方法などとも向き合っていく必要がある。現実社会で我々が心を擦り減らすようなことに向き合っていくなかで、悩まない訳がないな。衛藤はそんな状況をこう評している。

近代的自我の内面的葛藤を繊細かつドラマチックに描写する技巧を会得している。(衛藤、2018)

穏やかな覚醒

内面的葛藤こそが、ヒーローの必須要件になりつつあるんだろう。そして、そういったヒーローに共感する読者が多いということは、現実においても同様に読者は悩みを抱えて生きている(そりゃ当然か)。悩みの種類が変わったともいえるかもしれない。

これまでに紹介した「ドラゴンボール」や「ワンピース」はジャンプ的な価値観である「友情・努力・勝利」の三原則に基づき、チームの大切さや努力による成長ということの大切さを教えてくれる漫画だった。

一方の「ヒロアカ」や「進撃の巨人」は登場人物が抱える深い悩みや迷いと向き合う姿勢や、プロセスを通じて成長していく様を新たに見せてくれている。もはや、敵との戦闘や修行の中で分かりやすく成長していくのではなく、自分や仲間、社会とどう向き合うのか内省を重ねることで(心身が)成長していく方に重要性がシフトしたのではないかと思う。

仮にジャンプ的価値観を現代風にアップデートするならば、下記のようになるだろうか。

・(悩みや迷いを乗り越える過程で生じる)友情
・(悩みや迷いを乗り越えるための)努力
・(悩みや迷いを乗り越え勝ち取った)勝利

現代人は悩んでいる。ヒーローも同様に悩んでいる。それは長い長い不況に慣れて先行きの見えない不安な未来と常に向き合わざるを得ない我々現代人の状況と重なり、投影できているのかもしれない。

新しい時代のヒーローは悩みや迷いがスッキリ晴れたときに覚醒するように思う。ドラゴンボールの孫悟空がクリリンを殺されて怒りの気持ちからスーパーサイヤ人に覚醒したのとは異なる。怒りや悲しみのような他者に向けられる感情が覚醒を呼び起こすこともあるだろうが、現代のヒーローは自分の内面に深く潜り込み、何らかの迷いを振り切った先に見えた何かをキッカケに覚醒する。穏やかな覚醒とでも呼べるだろうか。

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もはやヒーロー漫画を読んでスカッとするような時代でないとすれば、「ヒロアカ」の緑谷出久のように、読者世代が物語の進展とともに並走していく形で成長していくことが現代的な姿ではないだろうか。

となると、「ヒロアカ」も「ワンピース」のように長く続く長寿漫画となり、若い読者世代とともに大きくなって欲しいというのが、私の切なる願いである。


【参考文献】
・「ロマン主義としての「少年マンガ」にみるニヒリズムと倫理の現在:『進撃の巨人』と『僕のヒーローアカデミア』」衛藤安奈、2018、慶應義塾大学日吉紀要
 

【参考サイト】

 

 

 


 

 

 

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