[設問]あなたは文房具店を営んでいます。今月は80円のペンを4本仕入れて、合計320円を支払いました。そのうち、今月は3本のみ販売しました。1本100円で販売し、合計300円を現金で受け取りました。下の空欄を埋めるかたちで今月の損益計算書(PL)を作成してください。
大津広一『英語の決算書を読むスキル』からの設問です。大津氏はビジネススクールや企業内研修で数多くの講義をしてきた実績があり、この設問は氏が受講生によく問いかけるものだそうです。問いかけた結果は驚くべきもので、なんと「ビジネス経験のない学生だけではなく、20年間ビジネスの最前線で活躍してきたビジネスパーソンも含めて、10人のうち7人は答えを間違えてしま」うそうです。誤答に至る思考プロセスは、以下の通りだと大津氏は言います。
[解答]「3本のペンを売って300円入ってきたんだから、売上は300円だよね。でもペンは4本買って320円払ったんだから、その分は売上原価として引いて-320円。この文房具店は、今月は20円の赤字だな」
非常に簡略化されたPLで書くと以下のような感じでしょうか。
この問題は「費用収益対応原則」という論点を理解していれば解ける問題で、同原則はたとえば金子智朗『MBA財務会計 第2版』の第3章で解説されています。大雑把に、そもそも費用は収益を獲得するために負担するものなので、収益が上がった期にその収益に対応する費用を計上するという会計原則です。ネットのキャッシュフローは誤答のように▲20円ですが、売れ残りの1本のペンはPLの売上原価ではなくBSの棚卸資産に計上(し、売れた期に売上原価となる)するので、正解は60円の利益となり、PLで書くと以下のようになります。
このように、PL上では利益(60円)が出ているのにネットのキャッシュフローはマイナス(20円)ということがあり、それゆえに黒字倒産というものが存在します。運転資金の重要性が身に染みるお話ですね。以上書いたことはどんな会計の入門書にも必ず書いてあることであり、身に付けるのに1時間もかかりません。1時間もかからずに上位30%以内のリテラシーが得られるとしたら、会計を勉強することは非常にオトクな時間の使い方だと思いませんか❓
ちなみに非常にどうでもよいことですが、「『ケイツネ』とか言うとプロっぽいですが、実は意外と通じなかったり」するそうです(ジョン太郎『ど素人が読める決算書の本 第2版!』)。