どうなるかちょっとだけ考えてみた。ちょっと前に、BCHが世界の基軸通貨(定義は雰囲気)❓になって世界中に流通して、他通貨を駆逐して名実ともにCashになるみたいなTweetを見たことがきっかけです(急に思い出した)。
考えるための助っ人として、欧州債務危機(ユーロ危機)ですっかり有名になった最適通貨圏理論にご登場願いましょう。最適通貨圏理論のおさらい↓
「最適通貨圏の理論とは、経済学者ロバート・マンデル(一九九九年度ノーベル経済学賞受賞)がいったもので、ユーロのような同一通貨を使用するための条件を明らかにしています。それによれば、ユーロ地域と自国の経済変動が同じようであればいいのですが、それが異なる場合には、自国の財・労働市場などの経済構造が柔軟でユーロ地域の経済変動を吸収できなくてはなりません」(高橋洋一『日本経済のウソ』)
最適通貨圏は「Optimum currency area」ないし「Optimal currency region」だから、略してOCAとかOCRとか言うみたい。アクロニムになると通っぽくてなんかかっこいいですね(厨二)。FOMCとかTARPとかLSAPとか、海外メディアで踊りまくってる金融政策界隈の用語って、何気なくPPAPが入ってても気づかなそうな感じじゃないですか❓(ガチで)
少々脱線しましたが要するに、ある通貨圏が最適規模であるための条件は、その域内の景気循環がほぼ均質であるか、そうでなければ(1)労働力の移動が自由であるか、(2)財政トランスファーが可能であるか、の2つの条件のうちいずれか満たさなければならないということです。貧しい地域があったらお金持ち地域に来て働いてもらうか、あるいは、お金持ち地域が貧乏地域にお金をばら撒くかすればいいよってことですね。北海道の人が東京に出稼ぎに来たり、国が交付金を沖縄にばら撒くみたいな感じです。後者は一部のネトウヨ勢が発狂しそうなハナシです。両条件とも、グローバルな規模でこれらを満足するのは極めて難しいと思われます。
米ソ冷戦時代に東ドイツは徹底的に疲弊する一方、西ドイツは「経済の奇跡」と呼ばれるほどの成長を遂げました。景気循環の均質性を全く満たしていないので、(1)か(2)を満たす必要がありますが、西ドイツは東ドイツからの労働力の流入を望ましいものとは考えず(経済格差による社会的軋轢、スラムの形成などを懸念)、結局(2)の財政トランスファーを選択し、「東西ドイツの統一以来、旧西ドイツが旧東ドイツの支援のために投下した費用は200兆円に上」(竹森俊平『ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った』)りました。イタリアもまあ似たような感じと思いますが(ただし東西ではなく南北)、ドイツもイタリアも統一したのは19世紀も後半になってからのことなので、ナショナリズムの関係もあるのかもしれません。
元は同じひとつのドイツの場合であってすら労働力の自由な移動を歓迎しないのですから、グローバルな規模ではなおさらでしょう。移民が社会的に問題視されBrexit問題が起きたのは記憶に新しいところです。地球の裏側の地域が不況になったからと言って、自国に自由に労働力が移動しても問題ないと考える人は少数派でしょうし、だからと言って、地球の裏側に財政トランスファーできるかというと、外国人居住者が生活保護を受ける「だけ」で問題視する人が少なくない以上、立法論的にも非現実的と言わざるを得ないでしょう。メキシコとの国境に巨大な壁を建設すると言った人が合衆国の大統領になる時代ですから。また、サミュエル・P. ハンチントンの『文明の衝突』を乗り越えて、たとえばアメリカがイスラーム圏のどの国にも気前よく財政移転できるのでしょうか。
以上をまとめると、いかにある仮想通貨が技術的に優れていようと、そもそもある通貨がグローバルな単一通貨になることは経済学的に不可能と思われます。だからこそ、ユーロという壮大な社会実験も失敗したということなのでしょう。各国が独自の金融政策を発動できないというのはやはり厳しい。