ビットコインの暴騰・暴落、コインチェック事件、取引所のCM増加・・・テレビでも仮想通貨に関連する情報を目にする機会が増えましたね。特に、昨年末の急騰時には「億り人」となる人も多数現れ、ビットコイン等仮想通貨の投資に興味を持ち始めた方も多いのではないでしょうか。
仮想通貨を保有する人や取り扱う機関の増加に伴い、資金法などの法律の整備だけでなく、税務や会計でも取り扱い方針の決定が急務となりました。
例えば、所得税上の取り扱いについては2017年9月に国税庁よりタックスアンサーが発表され、仮想通貨の取引により獲得した利益は雑所得として取り扱うということが決定しました。また、2017年12月には確定申告の対象となる損益やその具体的な計算方法等について取りまとめたFAQも公表されています。これらについては、確定申告の際に内容を確認された方もいらっしゃるかと思います。
そして、会計上の取り扱いについては企業会計基準委員会から2018年3月に「実務対応報告第38号 資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」が公表されています。こちらは個人投資家の方にとってあまり馴染みはないかもしれませんが…。実務対応報告はいわゆる会計基準であり、会社の経理担当者は会計基準に基づき仕訳を行い、財務諸表を作成することになります。
さて、そんな公表されて間もない実務対応報告ですが、これによって具体的にどのように仕訳や財務諸表作成を行うこととされたのでしょうか。この記事では会計処理の流れをざっくりとまとめたいと思います。
なお、説明の簡略化のためこの記事では「仮想通貨交換会社(販売所、取引所など)に当たらない会社」が、「ビットコイン」を取引・保有するという前提で進めさせていただきます。カギカッコ内の前提が変わると会計処理や財務諸表上の取扱が変わることがありますのでご注意ください!
仮想通貨の取得価格は手数料等も含めた支払対価となります。仮に、1ビットコイン(=90万円とします)を手数料10万円を払って入手した場合は以下の仕訳になります。
仮想通貨 100/ 支払手数料 10
/ 現預金 90
有価証券の取得時の仕訳と同様、取引所に支払った手数料等も取得原価に含まれます。
例えば、100万円で取得した1ビットコインが110万円で売却できた場合、90万円でしか売却できなかった場合はそれぞれ以下のような仕訳になります。
現預金 110/ 仮想通貨 100
売却益 10
現預金 90/ 仮想通貨 100
売却損 10
ここでは現金(日本円)に換えた場合を例に挙げましたが、他の仮想通貨に交換した場合も一旦売却して日本円にし、その日本円で再度他の仮想通貨を取得したという流れで仕訳を行うのが妥当かと思います。
また、複数回に分けてビットコインを取得していた場合、基本的には「移動平均法」で原価を求めるのが良いかと思います。
例えば、”1ビットコインを50万円で購入し、さらにもう1ビットコインを100万円で購入。その後、1ビットコインを100万円で売却”の場合、原価は (100+50)÷2=75万円となり、売却益25万円が生じることになります。
保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理します。
期末時点で市場価格が1ビットコイン=150万円となっていた場合、期中に100万円で取得した1ビットコインについては以下のような仕訳が必要になります。
仮想通貨 50/ 評価益 50
同様に、市場価格が1ビットコイン=80万円となっていた場合、期中に100万円で取得した1ビットコインについては以下のような仕訳が必要になります。
評価損 20/ 仮想通貨 20
ここで問題になるのが「市場価格」って何?ということです。市場価格=取引所で取引されている価格と考えてもらって差支えないのですが、ビットコインを取り扱う取引所は国内だけでも複数あります。また、同じタイミングでも取引所によってレートが異なる場合がほとんどです。
これについては、実務対応報告第38号で「保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格(取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格)を用いることとする。」と規定されています。このことから、例えばZaifで最も多くビットコインの取引をしたのならば、決算日におけるZaifの終値を貸借対照表価格とすればいいということになります。
以上①~③が仮想通貨に関する主な仕訳です。取扱は有価証券と似ていますね。これはあくまでも一つの例ですので、各会社の状況によって上記のパターンに当てはまらない仕訳が必要になることもあります。詳細は実務対応報告の原文をご覧になるか、最寄りの公認会計士までご相談を!
これは実在する企業が作成した財務諸表を見ていただくのが一番だと思います。
実は、すでに株式会社ネクスグループなどがこの実務対応報告に基づき財務諸表を作成しています!ネクスグループは11月決算の会社で、2017/12/1~2018/2/28の第一四半期報告書を4月13日に発表しています。
仮想通貨の取引による影響額が大きかったためか、貸借対照表の流動資産には「仮想通貨」、損益計算書の営業外費用には「仮想通貨売却損」「仮想通貨評価損」と、これまでの財務諸表では見られなかったような科目名が使用されています。
・・・という訳にはいかないようです。
仮想通貨に係る会計基準はまだ整備中で、今回取り扱った実務対応報告においても「当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めている。」と明記されています。
例えば、企業が仮想通貨を発行した場合の会計処理については今回公表された実務対応報告内では触れられていません。株式会社メタップスでは韓国の連結子会社が2017年10月にICOを実施しているのですが、会計処理が定まっていないため担当の監査法人との会計処理の協議に非常に時間を要したようです。そのため、2017/9/1~2017/11/30の第一四半期報告書は一か月遅れで提出されることになりました。リンク先の「要約四半期連結財務諸表注記」あたりの内容からは会社と監査法人双方の苦労が透けて見えます・・・。
その他、上場会社である株式会社フィスコの連結子会社、株式会社フィスコ仮想通貨取引所では、グループ会社向けではありますが2017年8月にビットコイン建ての社債を発行しています。マイニング等仮想通貨関連事業への参入を表明している企業も多くあり、これから仮想通貨をめぐる会計事情はさらに複雑になることが予想されます。会計基準もその都度整備が行われるでしょうし、正しく会計処理を行うためにはこれからも知識のアップデートが必要そうですね。
いかがでしたか?今回は会計という若干マニアックな視点から仮想通貨の記事を作成してみました。多くの方にとっては退屈であろう記事を書いてしまい申し訳ないです。
ですが、財務諸表が読めるようになると、仮想通貨関連株への投資を考える際に役立ちますし、将来的に上場会社がICOを行うようになった場合も投資判断の一助になると思います。今まで会計に関心が無かった方も、これを機に興味を持っていただけると嬉しいです!
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