前回の投稿に引き続きチェンバレン型の説明と取られている戦略の法則性を紹介します。
IO型よりは参入障壁が低く様々な企業が自社の特徴を出しながら激しく競争していることを指します。自社の特徴を磨いて競争優位を獲得することを差別化戦略といいます。チェンバレン型の代表例としては自動車業界やアパレル業界などが当てはまります。この差別化戦略を行うのは簡単そうでかなり難しいのです。なぜなら生産に必要な資源は競合他社も獲得することができること、よって自社で加工、変化させる必要があるということ。そしてその付加価値活動が本当に消費者にとって有益であると認識してもらえるかどうか、ここが大切なのです。つまりこの差別化戦略を行うために必要なことは自社に固有で有益な付加価値活動を実行する能力を有することが求められます。
固有で有益な付加価値活動を行えるようにするには?
まずは経営資源を獲得することが重要です。経営資源とはカネ・モノ・人・情報の4つのことを指し今日では特に情報を重視する傾向にあります。しかし優れた経営資源を持っているだけでは固有な付加価値活動にはつながりません。なぜならカネもモノも人も情報も競合他社が獲得することは可能だからです。カネは銀行から、モノは市場に出回っているものであれば購入できる(自社開発は獲得できないがいずれは他企業が開発する可能性がある。)人は雇って育成すればどうとでもなり、情報は特許やサイバーセキュリティなどで防衛していてもいずれは漏洩したり期限が切れたりしてしまいます。これでは永続的な差別化はできないのです。
ここで重要になるのが組織能力(英語ではケイパビリティ、外来語として定着しつつある)です。組織能力とは経営資源を効果的、かつ効率的に活用し付加価値活動を進めるための能力です。(組織能力の研究は経営組織論としてまとめられています。)つまり経営資源×組織能力によって企業独自の強み、コアコンピタンスを形成するのです。そしてこのコアコンピタンスが競争優位として発揮され業界内で平均以上の収益を出すことができるのです。このように企業の内部環境に焦点を置いて戦略を立てることをresource based view(リソース・ベースド・ビュー、略してRBVと経営書では書かれることが多い)と呼ばれ前回紹介した外部環境に焦点を置くポジショニング戦略とは対の考え方となっています。
企業のコアコンピタンスを評価するためには?
先ほども言ったようにコアコンピタンスには価値がなければなりません。しかし価値があるだけでは競争に勝つことはできません。バーニーが提唱したVRIOフレームワークというものがあります。これの意味はコアコンピタンスについて価値があり(value)貴重で(rare)模倣することが困難で(inimitability)組織化された(organization)場合、企業は大きな競争優位を持つとしました。しかしコアコンピタンスを獲得することには単に事業活動を行っているだけでは競合他社と大きな差を得ることはできないとまでは言いませんがその可能性は非常に高くなります。よってどのような経営資源を手に入れどのように効果的な組織能力を手に入れるかを方向づけるために企業にはビジョンとミッションが必要になるのです。
ビジョンとミッションについて
ビジョンとは一言で表すなら企業の夢、このような企業でありたい、このような世界を作り出したいといった究極的に達成したいことを表しています。例えば楽天であればグローバルイノベーションカンパニーであり続けると掲げており日本にとどまらず世界に、安定ではなく革新的にという意図が明確です。こうすることで楽天の社員は社内公用語が英語になっても当然と考えるでしょうし革新的にEC事業にとどまらず金融事業や球団経営、携帯電話事業などに乗り出すことができたといっていいでしょう。
次にミッションとは企業が誰のために(who)、どのような要求に対して(what need)、どのように価値を提供するか(how)を明確にすることです。楽天であればイノベーションを通して人々と社会をエンパワーメントする、としています。つまりwhoは人々と社会、what needはエンパワーメント(個人の影響力、権利を高める)、howはイノベーションを通してとなります。(さすが三木谷社長ですね。)
このようにビジョンとミッションを作るには外的環境の分析も必要になります。現在の日本で安全な水を提供することをビジョンにした企業はつぶれていてもおかしくないでしょう。なぜならすでに実現されているからだ。
ここで皆さんは2つ疑問に思うはずです。ビジョンとミッションって何か差があるの?楽天のビジョンもミッションも曖昧過ぎない?まずビジョンとミッションの明確な違いとはビジョンは理想の将来像、そしてミッションはそこまで到達するまでの道筋を方向づけしているのです。楽天に関しては別にビジョンを達成するだけなら研究開発を世界各地で行い事業を展開し続ければいいだけの話です。しかし人々と社会、人だけではなく社会にまで目を向けますよという方向性、そしてエンパワーメントをすることを目的としているのです。図示するならばビジョンというゴールに向かってミッションという矢印を目安に進む、つまり成長するということなのです。
もう1つの疑問、なぜビジョンとミッションに曖昧性があるのか?これは急激な変化が起きた時でも柔軟に対応することができるように幅を持たせているという視点、もう1つは現在行っている事業にとらわれないようにするためという視点があります。コロナウイルスによって世界一の接客を行い続けることをビジョンに掲げていた飲食店はどうする必要があるのか、事業活動に制限が出てきてコアコンピタンスを生かしきれないかもしれない。また楽天がインターネットとhowを縛っていたら楽天イーグルスは誕生しなかったでしょう。コアコンピタンスを形成するには長い年月が必要です。だからミッションはまだしもビジョンは変えてはだめなのです。ビジョンやミッションには多少の曖昧さは必要なのだ。
以上よりチェンバレン型の業界は差別化を意識しコアコンピタンスを磨くということを重視して戦略を立てる法則性がある。しかし他の業界が全く意識しないというわけではない。またあくまでも重視しているといっているだけで別に前回紹介したポジショニングも重要である。ただどちらかというとウエイトはRBV(リソース・ベースド・ビュー)のほうにある。