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アンファンテリブル

川光俊哉's icon'
  • 川光俊哉
  • 2019/11/01 09:24
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 女の子が四人、三人はかたまって、ひとりに対している。

子1 わたし、本当にかなしかった

 間。

子1 もう、こんなことしないって、約束して。あたしたち、こんなはずじゃなかった。もっと、一緒に、うまく生きていける道だって、あったと思う
子2 そうだよ。こんなの、おかしいよ。もう、終わりにしよう、ね
子1 (女の子3へ)そうだよね。あたしの言ってること、なんかまちがってる
子3 合ってる
子1 ほら
子2 おねがい。なんとか言って。あたしたち、そんなのじゃなかった

 間。
 バイト、登場。もじもじしながら様子を見ている。

子4 ひとつ言わせてもらうけどさ
子2 うん
子4 あんたたちに、わたしのなにが分かるっていうの
子1 ……ねえ、なに言ってるの
子4 わたしのことなんか、誰も分かってくれないよ。分かるわけがないじゃない。どうせ、どうせ、わたしはひとりよ
子1 ちがう
子4 なにがちがうの
子1 ひとりじゃないよ
子4 ……
子2 あたしたちがいるじゃない
子4 え……
子1 友達でしょ
子4 でも……
子1 あたしたちだって、あなたのことがきらいだから、こんなこと言ってるんじゃないの。ちゃんと、むかしのことは整理して、ね、おたがい水に流して、いやなことなんか忘れるためだよ(女の子3へ)そうでしょ
子3 うん、そう
子1 あたしだって、つらいよ。でも……それが、みんなのためだしさ(涙目になる)

 間。

バイ いいかな
子1 ごめん、ちょっと、あとにしてくれるかな
子2 いま、死ぬほど大事な話してるの。分かんないかな
バイ いや、でも
子1 発言するときは、手をあげてくれますか
バイ ……(手をあげる)
子2 はい、なんですか
バイ あの、どうしたのかな。なんだか、こわそうな話してたけど
子2 こわい話なんか、してないよ
バイ いやあ、なんか(笑い)いじめじゃないかな、と、思ったから
子1 いじめなんかしてません
子2 (鼻で笑う)いじめ、とか……なに、単純すぎ
バイ ごめん。気になったから
子1 だからさあ、なんて言ったらいいのかなあ。むずかしいな
子2 だからあ、大人には分かんないことがあるって、そういうこと
バイ ああ……(女の子3を見る)そうなんだよね、いやになっちゃう。どうして大人なんかになっちゃったんだろうね
子3 おかし、こぼしたの
バイ え、なに
子3 けいちゃんのベッドで、ゆいちゃんがおかしこぼしてさ
子1 (ヒステリックに)だまってて
子3 だから、けいちゃん、怒ってるの
子1 おねがい。あたしをこれ以上こまらせないで。だまってちょうだい
バイ それは……児童館じゃなくて、おうちでのことだよね、たぶん
子1 そうよ
バイ なんで、それで、いま、けんかするの
子1 (ヒステリックに)大人には分からないって言ってるでしょ、何回言ったら分かるの。たたくわよ
バイ ……
子1 それに、けんかじゃないわよ。何回客観的に言ったら分かるの。本当にたたくわよ
子2 だからあ、いろいろあるんだって。分かるでしょ。それだけじゃないの。分かんないか。あーあ、やんなっちゃう
子4 ひとつ言わせてもらうけどさ
子1 いいわよ。言えばいいじゃない
子4 だまって聞いてたら、なに。わたしだけが悪いみたいじゃない。あなたたちは、そんなに立派な人たちなんですか。よってたかって、なに。わたしにだって、それは、悪いところはあった。でも、あのときは、ゆるしてくれたじゃない。むかしのことは言わないって、約束したでしょ
子2 だからあ、それだけじゃないの
子4 分かんない、分かんないよ。あのころのあなたは、そんなのじゃなかった。変わっちゃったのは、あなたのほうよ
子1 じゃあ、ひとつずつ、おしえてあげたほうがいいのかしら

 間。

子1 ああ、本当にいや。むかしのことを蒸し返すみたいで、悪いんだけどさ……
子4 早くして。あなたが思っているほど、人がいいわけじゃないみたいなの、わたし
子1 四日前よ
子2 ひょっとして……あのこと
子1 あの日……忘れもしないわ……給食のグリンピースごはん……(笑う)よくもまあ、あんなに大盛りにしてくれたものね
子4 え……わたしは、約束を守っただけよ……当番のときは、おたがいおまけしようって、誓い合ったじゃない
子1 わたしは、グリンピースがきらいなの。なに、これこそいじめよ。いいかげんにして。いけしゃあしゃあと、どの口がそんなことを言うのか(飛びつこうとする)
バイ (とめる)いやいや、いやいや、ちょっと待った
子1 おねがいしますから、発言するときは手をあげてくださらないでしょうか
バイ (手をあげる)
子1 (無視して)次にあなたは、こう言いたいんでしょ。わたしが、グリンピースきらいなの、知らなかった、って……(鼻で笑う)知るわけないわよ、だって、わたしたち、友達じゃなかったもの。そうでしょ。友達なら、わたしを見てれば、グリンピースがきらいなことくらい、お見通しよ
子4 ……わたしは、グリンピースが、好き
子1 ……なんですって
子4 グリンピース、おいしいもの……わたし、つぶつぶしたのが、すごく好きなの。イクラも好き
子1 だからって、あなたのつぶつぶを、わたしが好きだとはかぎりません。てゆうか、どう客観的に考えたって、わたしがグリンピースきらいなのは、分かるでしょ。ぜったいよ(子3へ)そうでしょ
子3 うん、そう
子4 でも、好きなものは……好き
子1 おねがい、だまって……取り消して。あなたのことが、グリンピースよりきらいになる前に
バイ (笑う)ぼくもねえ、この年になっても、グリンピースは苦手なんだよな
子1 わたしははっきり言ったつもりですけれど、あなたの耳はどこについているんですか
子2 発言するときは、挙手
バイ ……(手をあげる)
子1 どうぞ
バイ ぼくは、グリンピースが、きらいです
子2 (無視して)あたし、覚えてる。一週間前だった。みきちゃんが一緒に帰ろうって、あなたを誘って、どうして、けいちゃんとかわたしに聞かずに、一緒に帰るの。あたし、本当に信じられなかった。死ぬほど傷ついたよ、ああ、友達のつもりだったけど、ゆいちゃんにとっては、そんなものなんだ、って
子4 ひとつ言わせてもらうけどさ。あなたたち、わたしの、なんなの
子1 ……なに、それ。もっと、客観的に言ってくれる
子4 わたしは、わたし。束縛しないで。おねがい
子2 ……わたしたち、もう終わりってこと
子4 ちがうよ。なんで分かってくれないの。わたしたち、友達じゃない。親友じゃない。こんなことで嫉妬し合う必要なんて、なかったはずよ。みきちゃんと一緒に帰ったって、わたしとけいちゃんは友達じゃない。わたしを信じて
子1 言い訳だよ
子2 裏切っていく子は、みんなそう。みんな、同じことを言うんだ
子4 (涙声で)裏切ってなんかない
子1 鬼ごっこしてたときだってさ……これは、いつもだよ、あなたの悪いくせ……つかまえられそうになったら、タイム、ってさ
子2 死ぬほど評判悪いよ。靴の紐がとけたふりしたり、なんか、気がつかなかったからなし、とか、もう、いいかげんにして
子4 本当に靴紐がとけるの。本当なの。わたしの靴、すごく紐がとけやすいの。信じて。おねがい
子1 ……もう、遅いよ
子2 わたしたち、どうして、こんなになっちゃったんだろう。なにもかも、遅かったよ

 バイト、こまっている。

バイ じゃあ、ね、みんな、おたがい不満はぶつけあったし、これで、気持ちよく遊べるね。これからは、いやなことはしない、と。よし、なかなおりだね
子1 わたしは小学校で、発言するときは手をあげなさいって、おしえられましたけど、大学ではちがうんでしょうか
バイ ……(手をあげる)
子2 どうぞ
バイ ……(ぼそぼそ)じゃあ、ね、みんな、おたがい不満はぶつけあったし、これで、気持ちよく遊べるね。これからは、いやなことはしない、と。よし、なかなおりだね
子2 ごめん、ちょっと待ってくれる。まだ終わってないから
子1 (子3へ)ほかにも、あるでしょ
子3 あるよ
子1 じゃあ、言ってあげて
子3 鬼ごっこしてて、ゆいちゃん、あ、わたしが鬼だったんだけど、ゆいちゃん、わたしがタッチしようとしたら、タイム、って
子2 (肩をすくめ)それはもう言ったじゃない
子3 ずるいって言ったら、いま、考えごとしてたって
子2 だからあ、鬼ごっこは、もういいの
子3 ……(考えている)
子1 じゃあ、わたしから、言うね……みんなで宿題してたじゃない。漢字の書きとりしてたじゃない。三日前よ。わたし、いまでも覚えてる
子2 ひょっとして……あれのこと
子1 みんなで一緒に宿題終わらせようね、って言ってたのに、校庭があいたら、宿題やめて行っちゃった……どうして。どうして、宿題ができないの
子4 みんなのために、場所をとっておきたかったの。そんなこと、分かってくれると信じてた。わたし、信じてた
子1 うそ
子4 うそじゃない
子1 わたしたち、ちゃんと宿題終わらせたよ。耳、って五十回書いた。最初、貝、ってまちがえてた。でも、ちゃんと消して、耳って最後まで書いたの。あなたは、三十くらいで、校庭を選んだ。ちがうの。そんなことがかなしいんじゃないの。どうして、どうして、ドッジボールの準備して待ってたの。リレーしようって、わたし、二日前からずっと言ってたじゃない
子2 わたしたち、がまんして、ドッジボールしてたんだよ。あーあ、死ぬほどたのしそうだったよね、ゆいちゃんは(子3へ)ね、そうだったよね
子3 そうだった
子4 ドッジボール終わったら、リレーしたじゃない
子1 ちがうの。もっとリレーしたかったの。分かる、言ってること。あたしはね、ドッジボールしてるあいだも、リレーがしたかった、リレーだけがしたかった、って客観的に言ってるの
バイ (陽気に)よし、リレーしよう。リレー、たのしいもんね。やった
子1 子供相手に恥ずかしくないんでしょうか。それとも、あなたは日本語が苦手なかたなのでしょうか。英語で言えば通じるんでしょうか。Shut up.何回言えば分かるの。たたくわよ
バイ (手をあげる)
子2 はい
バイ ……いや、なんでもないです。忘れました
子1 (無視して)ゆいちゃんと遊べない理由が、これだけ出ました
子2 わたしたち、本当のこと言ってるだけだからね
子1 わたしたちだって、子供じゃないの、でも、わたし、しょうがないと客観的に思う。これだけ言って、ゆいちゃん、悪かったってみとめてくれないんだもん
子2 わたしたち、やっぱり、終わりなのかな
子1 しょうがないよ。しょうがない……あたしたち、出会わないほうがよかったね。出会っちゃいけなかった。運命って、ときどき、すごく残酷ね

 間。

子1 ゆいちゃんと遊びたくない人

 女の子2、手をあげる。

子1 (子3へ)あんたは
子3 (手をあげる)
子1 ……(手をあげる)

 間。
 肩をふるわす、女の子4。

子1 手をおろして

 皆々、そうする。

子1 多数決では、ゆいちゃんと一緒に遊べないことになります
子2 でも、多数決だもん
子1 しょうがないね
子4 ひとつ言わせてもらっていいかな
子2 また
子1 いいよ
子4 わたしだって、がまんして、あなたたちと付き合ってきたの。わたし、もう九歳よ。もの心ついた、ってやつ。なんで、あなたたちと一緒に遊んでたか、分かる。あなたたちが、誰にも相手にされずに、さみしそうだったから、だから、わたしがなかよくしてあげてたんじゃない。分かってないのは、あなたたちじゃない。わたしがいなくなって、本当に、あなたたちは、それでいいの。知らないよ。わたしと遊びたくなっても、わたしは、もう別の人のものになってるのよ
子1 ……ねえ、本気で言ってるの
子4 本気
子1 よく分かった。あなたがなにを考えてたか。これで、本当に終わり。さよならね
子4 さよならね
子2 後悔、しないの
子4 なんのこと
子2 あなただって、わたしたちと別れたら……
子4 わたしには、柳島さんがいるもの
子1 柳島さん……
子4 みきちゃん
子2 そう……やっぱりね
子1 ずっと……なの
子4 一年生のときから、ずっと
子1 (涙声で)知ってた……そんなこと客観的に知ってたわ……でも、みとめたくなくて、知らないふりしてた……
子4 わたしが、児童館でコナン読んでたのが、すべてのはじまりだった。児童館のコナン、なぜか十九巻までしかなくて、わたし……続きが気になって……そんなとき、声をかけてくれたのが、みきちゃんだった。コナン、好きなの、って聞いてくれたから、うん、好き、ってこたえた。そしたら、うち、お兄ちゃんがコナン全巻持ってるよ、って。それから、みきちゃんの家に行くようになった
子1 コナン……コナンなのね。あたしは、コナンより……
子4 コナンだけじゃないの。みきちゃんのお兄ちゃん、ワンピースも持ってた
子2 ワンピース……わたしだって、死ぬほど読みたいよ
子4 最近じゃ、ドラゴンボール、かな
バイ かめはめ波
子4 (無視して)さ、これでさっぱりした。わたしなんかより、いい人見つけてね。応援してるから。しあわせになってね

 間。
 バイト、こっそり去る。

子4 さようなら(去ろうとする)
子3 あ、ゆいちゃん
子4 (足をとめる)
子1 どうしたの
子3 鬼ごっこしてたとき
子2 いまさらなによ。もう、なにもかも遅いのよ
子3 わたし、鬼やってて、わたし、足が遅いから、みんな、つかまえられなくて、ずっと鬼だったんだけど、だけど、ゆいちゃんが
子4 (振り返る)
子3 ゆいちゃんが、わたし、鬼やるよ、って。かわってあげる、って。わたし、うれしかった
子1 ゆいちゃん……
子2 ゆいちゃん……
子4 そう、あのころはよかったわね……でも、過ぎたことよ
子2 ゆいちゃん……わたしたち、やりなおせないかな
子4 なに、それ(涙声で)ちょっと、虫がよすぎるんじゃない
子1 やりなおせるよ、わたしたち。だって、だって、わたし、やっと分かった。わたしたち、はじまってもいなかったんだって
子2 そうよ。わたしたち、これからじゃない
子4 おねがい、わたしをこまらせないで(去ろうとする)
子1 もう、わがまま言わない
子2 わたし、ふたり目でも、いい
子1 帰ってきて
子4 (また振り返る)
子1 好きなの、ゆいちゃんのことが、どうしようもなく、好きなの
子2 愛してる……死ぬほど愛してる。ゆいちゃん以外には、考えられないの

 間。

子4 (近づく)(涙目で)わたし……どうすれば、いいのかな
子1 笑ったら、いいと思うよ

 女の子たち、抱き合う。すごく盛り上がる。

 所長さんをつれて、バイト、登場。

バイ あの、なんか変なことになってまして……
所長 (無視して)けいちゃん、ちょっと来なさい
子1 (けろっとして)なんだよ
所長 (怒る)なんだよじゃない。なんですか。なんですか、って言いなさい
子1 なんですか
所長 またみきちゃんに悪口言ったでしょ
子1 言ってないし
所長 でぶって言ったでしょ
子1 わたしだけじゃないよ。みんな言ったんだよ
所長 (腕をとる)こっちに来なさい
子1 みんなで言ったんだよ。わたしだけじゃないもん、わたしだけじゃないもん、わたしだけじゃないもん

 所長、女の子1、去る。間。

子3 鬼ごっこしよっか

 しよう、しよう、と女の子たち、去る。間。

 ひとりぼっちのバイト。

バイ 児童館のバイトは、もうこりごり

 ぎゃふん。

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  • 川光俊哉
  • @55ohguy
Toshiya Kawamitsu/第24回太宰治賞 最終候補 小説『夏の魔法と少年』/舞台『銀河英雄伝説』他、商業演劇で脚本を手がける/現在、山崎哲の後任として二松學舍大学文学部国文学科 講師

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