京都の五条通の南に「五条楽園」と呼ばれる地区があります。
この地区はかつては(今も?)京都のガイドブックや観光サイトにほとんど載っておらず、知る人ぞ知る場所だったんです。
今回は、この五条楽園を散策します。
それにしても楽園って、一体なにが楽園なのでしょう?
はい、楽園とは何かを解き明かすべく、探索をするのですよ。
五条楽園は五条通の南、鴨川の西にある地区です。
ここへ行く交通手段ですが、都心部なので交通は便利です。
最寄り駅は京阪電車の清水五条駅。
この駅は鴨川にかかる五条大橋の東に位置します。五条大橋とは牛若丸と弁慶が出会った場所ですよね(正確にはこの橋の場所ではないらしいけど)。
あるいは、地図のように京都駅からも近いので歩いて行けます。
今回は京阪電車の清水五条駅から下がって(南へ行って)、京都駅から帰ります。
上の写真は五条大橋から南を向いて鴨川を撮っています。
丸で囲んだ地区が五条楽園。鴨川沿いですね。
さらに西に進むと高瀬川にあたります。
五条楽園は、先の鴨川とこの高瀬川に挟まれた地区になります。
狭い道に家がたくさん並んでいます。
その建物のいくつかに趣があるのです。
この五条楽園は元は遊郭でした。楽園とはいわゆる男の楽園のことだったんですね。
今はそのような性風俗の店は全く無くなっています。
陰でコソコソ営業している感じもなく、ほんとに無くなっているようです。
でも、かつての娼楼だった建物はまだ残っており、それが独特の建築で味わい深いので最近注目されているんです。
では、そんな建物を見てゆきましょう。
まずはこの建物。
京都によくある町家ですが、タイルを使ったりして結構近代的でおしゃれな感じですね。
これはカフェー建築と呼ばれているそうです。
そう、ここはカフェーとして使われていたのですね。
と言っても、カフェーというのは今のカフェではありません。
カフェーとは酒を含む飲み物を出すだけではなく客に女性がついて接待する、今で言うキャバクラのような店らしいです。
さらに2階に小部屋があって店の女性を連れ込んだり、あるいは外に連れ出したりもできたそうです。
こうなると娼楼(しょうろう)、売春宿の部類ですね。
それにしても、外観はカフェのようなお洒落さがありますよね。
風俗店であっても表向きはカフェなので、カフェ風にデザインしたようです。
さてこの建物、今はどのような業態なのでしょうか?
ここはホステル、レストラン兼コワーキングスペースとしてリニューアルされて使われています。
とっても健全ですw
お次はここ「梅鉢(うめはち)」。
ここは和風ですね。玄関の上に神社仏閣やお城に見られる唐破風(からはふ)が付いていて、格式高い感じです。
この梅鉢はお茶屋でした。
お茶屋というのは、ここ五条楽園では祇園のお茶屋のように芸妓が芸を見せるだけでなく、娼楼でもあったとのこと。
今でも梅鉢という看板が出ていますが、もちろん営業はしていません。
結構立派な建物ですね。五条会館とあります。
この五条会館は歌舞練場でした。
歌舞練場というのは、文字通り芸妓さんが歌や踊りを練習する場所で劇場でもありました。
五条楽園は遊郭ではありますが、単に性風俗だけではなく芸事もしっかりしていたことがわかります。
五条会館は、現在は会社の事務所のようです(未確認)。
お茶屋 新みかさ
ここはなかなかモダンなカフェー建築ですね。遊郭の建物とは思えない、喫茶店という感じです。
ちなみに、大正から昭和にかけてカフェーは性風俗のイメージとなったので、普通の紅茶やコーヒーを出すだけの店は純粋な喫茶店ということで「純喫茶」と呼ばれるようになりました。
なるほど、喫茶の前に「純」が付いている理由ってこういうことだったんですね。
五条楽園はこのような狭い通りにさまざまな建物がひしめいています。
5JMって看板がありますが、何?
ここは五条モール。看板の5JMは五条モールの略ですね。
中には雑貨店などいくつかのお店が入っているのでモールなのですね。この日はお休みで中には入れず。
もちろんここもお茶屋をリニューアルしたものです。
こちらは立派な和風の建物。「平岩」さんです。
もちろんお茶屋で、小部屋がいくつもありそこで女性と愉しむようになっていたようです。
今は普通の旅館として運営されています。
新型コロナ流行前は遊郭の雰囲気を味わいたいと、外国人観光客に大人気だったとか。
そして来ました、これが話題のサウナの梅湯!
梅湯は下町によくあるような銭湯ですが、最近のサウナブームに乗って全国的に有名になっています。
サウナーの聖地、いやサウナーの楽園になっており、このときも近隣の人ではなさそうな若い人々が次々と訪れていました。繁盛しています。
昭和レトロ感が満載ですね。
この日、僕は時間の関係で入湯できませんでした。残念なので、機会を見つけてお風呂とサウナに入り整いたいと思います。
梅湯は廃業寸前まで行きましたが、若い人が運営を引き続きアップデート、再建されました。そのストーリーが共感を呼び、広く有名になったのです。
詳しくは文春オンラインの記事を読んでください。
さて、この梅湯は話題ですが、その隣にはかつては話題にしてはいけない場所がありました。
梅湯の横は空地になっています。これがその場所。
この空き地は何でしょう?
実はこの空き地には昨年(2021年)半ばまで指定暴力団・会津小鉄会の元本部事務所が建っていたんです。
前の道路には警察官が常駐しており物々しく、とても写真を撮れる雰囲気ではありませんでした。
歴史の長い遊郭にヤクザ事務所、これも京都の一面です。
いや一面でしたが、それも過去となってきています。
そんな物々しさを癒やすかのように、高瀬川は流れてゆきます。
高瀬川ぞいに、さらに下り(南へ行き)ましょう。
ここもとても話題の場所です。丸福楼(まるふくろう)。
今年(2022年)4月にオープンしたばかりの新しいホテルです。
新しいホテルという割にはレトロな外観ですね。なにか理由があるのでしょうか?
玄関の横に掲げられているプレートを近くで見てみましょう。
プレートには「かるた・トランプ 山内任天堂」とあります。
はい、ここがみんな大好き任天堂の創業地、初代の本社だったのです!
任天堂ファンの聖地ですね。
その旧本社の建物をリニューアルし、ホテルとしてオープンしたのが丸福楼とのこと。設計監修は安藤忠雄氏です。
ホテルの名前やこの写真の旗にある丸福というのは、任天堂創業家である山内家の屋号とのことです。
ちなみにホテルの運営は任天堂ではありません。
また高級ホテルなので、マリオの部屋とかポケモンの部屋とかイカ部屋はありません。
それにしても、なぜ任天堂本社が五条楽園という遊郭・歓楽街の一角にあったのでしょうか?
この謎は調べても出てこないので推測ですが、任天堂は花札の製造から始まったことは有名で、花札といえば賭博の道具。
五条楽園のような歓楽街には賭博がつきものですから、何か繋がるものがあったのかもしれません。
それにしても、まさか今回の散歩で任天堂のルーツまで思いを馳せることになるとは思いませんでした。
そして丸福楼の隣には「眼科・外科医療器具 歴史博物館」と看板を掲げた建物がありました。
これは何なのでしょう?
玄関には「奥澤眼科診療所」との看板が。
どうやら、かつての眼科診療所を医療器具の博物館にされているようです。
しかし、ここでまた任天堂旧本社と同じ疑問が湧いてきます。
なぜ、遊郭の一角に眼科診療所があるの?
博物館の方に聞けばこの疑問は解決するのかもしれませんが、残念ながら博物館は閉まっていました。と言うより、事前に予約をした場合だけ開館するようです。
ということで、眼科がここにある理由についてまた推測を。
遊郭では性感染症が大問題です。性感染症の代表は梅毒や淋病でしょうか。
そして梅毒や淋病は悪化すると目を侵し、ひどければ失明に至るようです。
遊郭の女性やお客で性感染症にかかる人は大勢いて目の症状が出た人も多いでしょうから、眼科診療所の需要があったのでしょうね。
任天堂旧本社、丸福楼を東入ル(東に行く)と鴨川にかかる正面橋。
空にはまだまだ夏の雲です。
そして鴨川の左手に見える町が、今回散策した五条楽園です。
そんなきれいな川と町の光景ですが、ここもある意味で由緒がある場所です。
向こうに見える五条大橋とこの写真を撮っている正面橋の間の河原は六条河原と呼ばれ、有名な昔の処刑場だったのです。
関ヶ原の戦いで負けた石田三成がここで処刑されています。
ですので、ここは昔から日本を代表する心霊スポットのひとつでもあります。
五条楽園は見どころたくさんなので、だいぶ長時間歩いて疲れてきました。
高瀬川沿いをさらに下って、そろそろ帰りましょう。
高瀬川ぞいでランタナの蜜を吸うツマグロヒョウモンが鮮やかで、夏の名残を感じさせてくれてホッとします。
高瀬川ぞいに西木屋町通を下がって(南に行って)、大きな七条通に合流しました。五条楽園の散策は終わり、ここから七条通を少し歩いて京都駅に向かいます。
五条楽園は狭い地区ですが、見どころ満載でした。
今や性風俗は全く消滅し怪しい雰囲気もなく、バシバシと建物の写真を撮っても凄まれることはなく安心して巡ることができます。
ここは京都の表に出ない部分がきれいになって、見どころ満載の地区になってきています。遊郭の建物の一部はリニューアルされ、雑貨店や銭湯などを若い人々が運営して活躍の場にもなりました。
ここに創業地がある任天堂の創業家・山内家も五条楽園エリアのリニューアルに力を入れるようです。
このように古く妖しい楽園から健全で新しい楽園へと移り変わる光景を楽しく思い返しつつ京都駅から電車に乗り、今回のお散歩は終了となりました。
Camera: LUMIX G8
Lenses: LUMIX 15mm F1.7, 25mm F1.7, 12-60mm F3.5-5.6, OLYMPUS 9-18mm F4-5.6
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