前回に続き、もう一つお話しましょう
これは、お婆ちゃんのお婆ちゃんのお話です
半世紀より、ずっと、ずーっと前のお話です。
その頃、我が家には、遠くから、訪ねてくる人たちがおりました。
それは、赤ちゃんを抱っこした若いお母さんたちです。
その親子が来ると、お婆ちゃんは、火鉢に火を起こし、硯箱を出して、墨をすり、細い筆を用意します。
何か、呪文を唱えながら、可愛い赤ちゃんの手のひらに、何やら、呪文の字が描かれます。そして、墨が乾くまで、火鉢に手をかざします。その間も、お婆ちゃんは何か呪文を唱えているのです。
赤ちゃんは、嫌がる様子もなく、おとなしいので、本当に疳の虫で悩んでいるようには見えません。どの子も、このおまじないの間には、泣かないのです・・・・
不思議です!
暫くすると、赤ちゃんの手の爪の間から、糸よりも細く、透明なものが、出てきます。
でも、それは、お婆ちゃんと私にしか見えません。
ほら、ほら、出てきた出てきた。疳の虫
お婆ちゃんが私に教えてくれました。
こうしてお婆ちゃんを訪ねてくる若いお母さんたちは、夜泣きや、癇癪が治まったと、お礼のお手紙をくださいます。
でもね、娘である、私の母には、この虫が見えないんだって!
孫の私が、お婆ちゃんの力を受け継いだみたい。
小さい頃、私が、このおまじないを継ぐんだと思っていました。
でも、その呪文も、やり方も教えてもらう事はありませんでした。
何故なら、その力は、色々な意味で大きくなったら、身を滅ぼしかねないからです。
力を持つ事はそれと同時に、滅びの呪文も知らなければならないから・・・・
お婆ちゃんは孫の幸せを願い、全てを自分の代で終わらせたのでした。
「バルス!」
だったのか、どんな呪文なのか、今では、知る由もありません
おしまい
*現在、疳の虫は、精神的なものと理解されています。決して、虫では無い事を付け加えさせていただきます
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