病院は停電になると、自家発電に切り替わって、生命維持装置や手術室の器械は、止まらない様になっている。
そんな環境で、仕事をしているから、停電は怖くなかった。
準夜勤の勤務が終わり、仮眠室にエレベーターで向かった。
11階のボタンを押した直後に、エレベータ内の電気が点滅して、電気が切り替わった、また、停電?
疲れていたし、「動いてくれていればいいや!」と思っていた。
一度閉まりかけたドアが開いて、女の人が入ってきた。
初めての顔?
どこかで会っているけど、思い出せない。
それに、看護師ではないのかな~白衣を着ていない。
女医さん?
・・・
白くて細い手が美しい
長い髪が、顔を隠している。
白くて細い手が13階を押している
・・・・
あれ~?
この病院には、13階はない。
11階が、スタッフルームになっている 。更衣室、仮眠室もある
12階は屋上だ。
・・・
「お世話になりました。看護師さん」
彼女は振り向いて、顔をみせた。
「あ~、2時間前に、亡くなった患者さん、こんなに奇麗で、若々しい人だったんだ」
さっき、私が死後の処置をさせてもらった。若いのに、老人の様に痩せこけていた。
何だか、辛くて、可哀想で・・・苦しくなった。
お見送りの時に、感情が抑えきれなくて、思わず泣いてしまった。
その思いを引きずってしまって・・・
そして
彼女を連れて来てしまったのだ・・・
13階の扉が開くと、彼女は、優しい笑顔を見せて、そっと、お辞儀をして出て行った。
扉の向こうにある天国への階段を登って行く・・・
ドアが閉まる
エレベーター内の電気が点滅して、電源が切り替わる音がする
11階のドアが開いた。
屋上の上には、もう13階のボタンは無くなっている
私の、彼女への感傷も、スーッと消えて無くなった。
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