活用できる人にとって宿題は、自分の力試しだったり定着度の確認になったりと、勉強のサポートとなる教材です。
しかし、多くの子どもたちにとっては、自分の時間を奪われる厄介な存在でもあります。
特に数学(算数)の課題は、やり方を理解できないまま課題が出されてしまうと手も足も出ずにただ答えを写して終わり……なんてことも。
そういう場合は、本来理解するべき単元に戻って勉強をすることが適切ですが、義務教育などですでにやることが決まっている学校ではそうもいきません。
この、「できないのにやらされる」という課題を自分や周りの適切なサポートによって解決できるならば良いですが、そうでない場合は勉強以外にも好ましくない影響が見られるようです。
今回のテーマはそんな数学の課題と、特定の状況における悪影響についての研究のお話です。
参考記事)
・Math Homework Can End Up Doing More Harm Than Good, Study Shows(2024/04/04)
参考研究)
・Mathematics homework and the potential compounding of educational disadvantage(2023/07/27)
南オーストラリア大学と聖フランシスコ・ザビエル大学の研究によると、生徒に数学の宿題を与えることは、時に良いことだけでなく害を及ぼす可能性があると主張しています。
特に、その作業に含まれる課題が複雑すぎて、子どもたちが親の助けを借りても完了できない場合には顕著です。
研究では、カナダに在住する8つ家庭にインタビューし、数学の課題の難易度とそれをもとにした経験、そしてそれが家族に与える影響について得られた回答を分析しました。
対象となった家族すべてに8歳~9歳の子ども(3年生相当)がおり、この年齢は、地域で最初の数学テストが実施される年齢です。
南オーストラリア大学の数学教育の上級講師であるリサ・オキーフ氏は、「宿題は、子どもの学習を強化し、学業の成功を向上させる習慣として長い間受け入れられてきました」と前置きした上で、「しかし、課題が複雑すぎると、なぜそれが宿題として設定されたのかという疑問が生じる」と述べています。
この研究から見えてきた問題は、たとえ親の助けがあったとしても、宿題が難しすぎることによってこなす作業に余計な時間が生じ、仕事が就寝時間を遅らせ、家族の時間を奪ってしまうことや、課題ができない子どもに対してフラストレーションの感情を引き起こすということなどがあります。
また、親の悩みとして、自分たちが教わってきた方法と異なる方法で教わっているということも挙げられました。
数学に限らず、勉強の指導や学習の方法には時代とともに変化しており、親が子どもの頃に習ってきたやり方とは違うやり方を学んできた場合、親がその方法に対応することに大きなプレッシャーや不満を感じるそうです。
研究者らは「これは“世代間の否定性”につながる可能性がある」と述べ、親と子の共通点を減らす問題点として挙げています。
研究の対象となった地域では、宿題の手伝いは主に母親が担当する傾向があります。
手伝ってくれる母親が宿題が困難であるような素振りを見せると、そのことによって“女子は数学が得意ではない”という否定的な固定観念を植え付ける可能性があることも問題視されています。
この勉強における否定的な固定観念は、彼らの成績やキャリア願望に永続的な影響を 与える可能性があることが他の研究で示されており、親のスキルによってこの観念が大きく左右されることが懸念されています。
この研究における参加者のサンプルは限定的ですが、研究者らは、この結果が教育における一般的に間違った認識を作り上げる可能性があると主張しており、算数の宿題が適切な方法で設定されるよう、また、そのせいで子どもたちが早い段階で算数から遠ざかってしまうことがないようさらなる取り組みを望むとしています。
「宿題には、独立性の促進や組織力の向上、自制心の向上など、学業以外の利点があると考えられていますが、研究で得られた家族の経験が必ずしもそれを裏付けるわけではない」と研究者らは述べています。
この研究の詳細は、British Journal of Sociology of Educationにて確認することができます。