肥満、またはより体重を減らすということは、飽食の時代に生きる者たちの大きな課題の一つです。
体重減少の法則は、摂取するカロリーよりも、消費するカロリーが多いことです。
ヒトは動物の中でもカロリーを溜め込みやすい生き物です。
身体の機能上、消費カロリーや代謝を制限してしまうこともあります。
今回はそんなヒトの身体の代謝とホルモンに関係する研究についてのお話です。
参考記事)
・Scientists Find Hormone Pathway That May Speed Up Calorie Burning(2023/07/04)
参考研究)
・GDF15 promotes weight loss by enhancing energy expenditure in muscle(2023/06/28)
体重を減らすことと減らした体重を維持することは、多くの人にとって簡単なものではありません。
体重減少のために食事を減らすことで、エネルギー消費量(代謝)を低下させるように身体が働くからです。
マウスを使った最近の研究では、成長分化因子15(GDF15)と呼ばれるホルモンが、食事量の減少によるエネルギーの消費低下を止め、筋肉内の代謝プロセスを早めることが分かりました。
カナダのマクマスター大学の医学者グレゴリー・スタインバーグ氏は、「我々は、マウスにおいてGDF15が、筋肉におけるカルシウムの循環を余分に促進することで、ダイエット中に起こる代謝の低下をブロックすることを発見した」と述べています。
これまでの研究では、GDF15とその関連のレセプターであるGFRALがマウスの食事量に影響を与えることが明らかになっています。
どのように作用しているかのメカニズムの解明やGDF15がヒトにも同じように作用するかなど、まだまだ研究の余地があります。
2030年までに全世界で10億人近くの1人が肥満に苦しむと考えられています。
二型糖尿病など生活の質を下げる大きな問題にもつながることから、地球上のより多くの人は健康的な体重まで減らすために様々な行動が必要であることは明らかです。
スタインバーグ氏は、「我々の研究は、GDF15というホルモンが、脂肪分の多い食べ物を食べたいという欲求を抑えるだけではなく、筋肉のエネルギー燃焼を促進する可能性は明らかにした」と語り、研究の成果に期待を寄せています。
GDF15を既存の薬と併用することで、より効果的な食欲抑制治療や、従来のダイエット法ではあまり成功しなかった人々に役立つ治療ができるかもしれません。
科学者たちはなぜダイエットがうまくいく人といかない人がいるのかをまだ完全に理解できていません。
個人差や食生活の違いなど、様々な要因が絡んでいると考えられますが、この研究で出たような、ホルモンのシグナル伝達経路に関する知識が深まれば、そういった謎もいくつかは明らかになるはずです。
GDF15は体内、特に肝臓と腎臓で自然に生産されますが、その生産は妊娠中に増加することが分かっています。
研究者らは、「GDF15-GFRALシグナル伝達、筋肉カルシウム循環、および減量前後の人におけるエネルギー消費の変化を調べることは、様々な治療の可能性を確立するために重要だろう」と論文に記しています。
食事を制限することで身体がカロリー消費を抑えるというのは自然な現象ですが、ホルモンをコントロールすることでその現象に逆らうことは何らかの副作用も考えられます。
これらの副作用なども明らかになり、より健康的に体重を減らすことができるようになったなら、肥満で困っている人達の大きな助けとなることでしょう。
この研究は、Natureにて詳細を確認することができます。