人間が過ごす上で快適な温度は夏場で25~28℃、冬場で17~22℃とされています。
沖縄に住む人と北海道に住む人で快適な温度に違いがあるとも言われているので一概には言えませんが、気候によって味付けの濃さなどにも違いがあったり外での活動時間が変わったりと、健康にも大きく影響を与える要素になっているのは確かです。
今回紹介するのはそんな生物と温度に関する研究のお話。
人間に限らず、動物が繁栄する上で最適な温度はどうやら20℃程度のようです。
参考記事)
・Scientists Identify a Universal Optimal Temperature For Life on Earth(2024/02/20)
参考研究)
・The universal evolutionary and ecological significance of 20 oC(2023/Frontiers of Biogeography Volume 15, Issue 4より)
・Global warming is causing a more pronounced dip in marine species richness around the equator(2021/04/05)
オークランド大学環境学部らによる大規模な分析から、動物、植物、微生物の繁殖が盛んな範囲が20°Cで重なっていることが明らかになりました。
基本的に生物は暖かい地域になるほどに多様性が生まれ、繁殖も盛んに行われるようになります。
しかし不思議なことに、赤道付近では海洋種の豊かさが低下していることも分かっており、温度が高ければ種が繁栄するという単純なものではないようです。
上の図は、ニュージーランドの研究グループが示した海面付近の温度とその付近生息する生物種の豊かさを統計的にまとめたものです。
温度が上がるにつれて繁栄を見せる生物がいますが、多くの場合、20℃を超えると種が減少していることが分かります。
その後に行われた研究では、この傾向は約20,000年前の最後の氷河期以来、より顕著になっていることが示されました。
これは、地球温暖化がもたらす影響の一つとして考えることができます。
20°Cよりも暖かい温度による影響は以下のようなものが考えられています。
・海洋および淡水種の低酸素耐性
・海洋遠洋と海底生活藻類の生産性や魚の捕食率
・遠洋魚、プランクトン、底生無脊椎動物、化石軟体動物における世界的な種の豊かさ
・遺伝的多様性
また化石の記録においても、気温が20°Cを超えたときには絶滅した生物の割合も増加しました。
生物が20°Cを中心に活動することは、熱帯種がより高い温度への適応が制限される一方、そうでない種は生息地を変えることで種の存続を続けることできるということでもあります。
これは海洋種が気候変動によって絶滅する危険性が少ないとも言えます。
私たち陸上の生物にとっても20℃という温度は重要で、この温度は細胞のエネルギー効率が良いとされています。
理由は完全に解明されていませんが、細胞に関する水の分子特性によるものと考えられています。
この20°C理論の裏付けにはさらなる研究が必要ですが、温度による種の豊かさと遺伝的多様性の傾向、化石記録の絶滅率、生物学的生産性、成長率、海洋捕食率に対して相関性が見られたことは、一つの大きな発見です
私たちヒトは、インフラや農地、職や国家、そして経済的な理由などによって生活圏が制限されます。
そのため、気候変動による温度の変化を予測し、それが与える影響に十分注意を払う必要があります。
大規模な気候変動が来ないことが望ましいですが、そういった場合に備えての対策やそうならないための予防もまた大きな研究対象となりそうです。
この研究はFrontiers of Biogeographyにて確認できます。