科学が発達した今日でも、未だにアルツハイマー病の原因物質は解明されていません。
脳の炎症した部分にアミロイドβなど特定の物質が多く見られることなど、これまでの研究でアルツハイマー病に関連した物質は明らかになっています。
しかし、それ自体が悪いものなのか、それとも悪い物質に反応して現れたものなのかも明確に分かっていません。
今回紹介する研究は、そんなアルツハイマー病の原因物質に迫る一つの成果として取り上げられたものです。
最新の研究では一体どのようなことが分かったのか……。
そんな脳研究の最前線を覗いてみます。
参考記事)
・A Completely New Cause of Alzheimer's Uncovered in Our Brain's White Matter(2023/09/14)
参考研究)
・Ferroptosis of microglia in aging human white matter injury(2023/08/21)
オレゴン健康科学大学(OHSU)、ワシントン大学、アレン脳科学研究所の科学者は、脳の白質の研究によってアルツハイマー病の原因と思われる物質を発見したと報告しました。
認知症患者の死後の脳組織の研究から、脳のさまざまな部分をつなぐ“白質”に損傷を与える反応を発見しました。
この反応は効率的に通信するのを助けるための鞘のような役割を持つミエリン(ミエリン層の)の消耗がきっかけとなります。
ミエリンは神経細胞の軸索を取り囲んでいる物質で、電気線を取り囲むビニールの管のような役割をする他、電気信号が身体の他の部分へ伝わる速度を速める役割もあります。
ミエリン層が老化、高血圧などの要因のために消耗すると、ミクログリアと呼ばれる免疫細胞によって脳から除去されます。
研究者らはこの過程で、白質に含まれる鉄を大量に処理することによって損傷したミエリンを一掃すると、ミクログリア細胞自体も破壊されることを発見しました。
実際に過去の研究においても、ミクログリア免疫細胞は、脳を安全に保とうと働いている最中に死ぬことがあることが分かっています。
オレゴン健康科学大学の脳科学研究員スティーブン・バック氏は、「ミクログリアが炎症を媒介するために活性化されることは誰もが知っている。しかし、(アルツハイマー患者の脳内で)彼らがそんなに大量に死んでいることを誰も知らなかった。私たちは今までこれを見逃していた」と述べています。
ミクログリア死と白質変性のカスケード効果(影響が連鎖的に伝わる現象)は、アルツハイマー病と血管性認知症に関連する認知機能低下に関与しているように見えますが、今後さらなる研究を重ね、確実に知る必要があると研究者らは述べています。
今、私たちがこのミクログリア変性についてさらに知ることができれば、アルツハイマーに対抗するための薬や治療法を開発することができるかもしれません。
バック氏は、「今回のような発見は、アルツハイマーの治療上重要な化合物を開発するために、製薬業界においても多くの参考になるだろう」と研究の成果を評価しています。
研究の詳細は、WILEY Online Libraryにて確認することができます。