人口増加や経済格差からくる食糧事情問題は、供給できる食糧の有無だけでなく、食糧の質の問題とも言えます。
菓子パンや清涼飲料水など、安価で大量に生産されるものの中には、精製された甘味料や保存料など規制されていないだけで人体には有害なものが多く含まれています。
中毒性のある食べ物のほとんどには不自然なほどの甘味料が含まれており、食べ方を間違えると身体の老化(酸化)を促進してしまうものばかりです。
そして、その健康被害の最も一般的な例が肥満です。
肥満の原因と考えられるものには、消費カロリーよりも摂取カロリーの量が多いことが原因のエネルギーバランス仮説や、インシュリンの作用によって余分な炭水化物を身体に溜め込んでしまう炭水化物インシュリン仮説、あるいは複数の仮説が同時に影響している複合仮説など様々な仮説が立てられています。
今回紹介するのは、その肥満のメカニズム解明につながるかもしれない仮説の一つ“フルクトース生存仮説”です。
参考記事)
・Major Study Claims to Identify The Root Cause of Obesity: Fructose(2023/10/20)
参考研究)
・The fructose survival hypothesis as a mechanism for unifying the various obesity hypotheses(2023/10/17)
コロラド大学は、フルクトースが及ぼす身体への影響が、肥満の原因のほとんどを説明可能だという旨の分析を発表しました。
フルクトースは、果物に多く見られる砂糖の一種です。
リンゴやバナナ、オレンジなどに含まれるビタミンや食物繊維と共に摂取することで、私たちの健康を支えるエネルギー源となります。
また、私たちの体内ではスクロース(砂糖)などの炭水化物からもフルクトースを作ることも可能であり、人体とは密接な関係があります。
参考)みんな大好き砂糖の科学②より
そんなフルクトースですが、老化の要因の一つと考えられている“糖化反応”がグルコースのおよそ10倍とされています。
その高い毒性のために、肝臓はグルコースよりもフルクトースを優先的に処理しようとすることが分かっており、糖尿病や心臓病、アルツハイマー病などの原因ともされているため、大量に摂取するのは好ましくないとされています。
このフルクトースは、テーブルシュガーや高果糖コーンシロップなどの甘味料に大量に添加されており、気づかないうちに必要量以上摂取している人も多いです。
研究の第一人者であるジョンソンら研究員は、これらの事実を基に肥満患者の徹底的な研究を行い、体内のフルクトースの代謝が体の細胞プロセスにエネルギーを提供するアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれる化合物の低下を引き起こすことを発見しました。
通常、ATPが十分に低いレベルに落ちると、より多くのエネルギーが必要だというシグナルを脳が発するようになり、その結果“空腹”を感じます。
この一連の流れが、フルクトース生存仮説です。
この仮説は、炭水化物の摂取量に関する説と脂肪の摂取量に関する説の両方を理論立てることができる統一仮説だと研究者は述べています。
また、ジョンソン氏は、「フルクトースによるATPレベルの低下は、私たちの代謝が低電力モードに切り替え、食欲のコントロールを失う原因となる。それによって摂取されるであろう脂肪は体重増加を促進するカロリーの主な供給源になる(意訳)」としています。
この低電力モードは、体内にエネルギーの余裕(脂肪)があっても作動します。
フルクトースがエネルギーの備蓄の使用をブロックしてしまうのです。
クマなどの冬眠をする動物などは、果物を大量に食べることで脂肪を保つことができるため、自然界においてこの機能は効率的と言えます。
しかし、人間に関してはそういった習性も必要も無いため、甘い食べ物や飲み物の消費は、不健康への道であると研究者は言います。
フルクトースの仕組みに関する研究のほとんどは動物に基づいているため、人間ではどのように機能するかを正確に判断するにはより多くの研究が必要です。
しかし、この調査結果は、健康危機を解決するための重要なステップだと言えます。
詳しい研究は、WILEY online libraryにて確認することができます。