(前へ)
「データベースへのアクセスがエラー!」
「こちらのバッチ処理も落ちてます!」
なぜだ、、、
「他のサブシステムもエラー発生!」
「業務システムが全て使い物になりません!」
一体どうなってやがる、、、
突然のダダダダーン改め重大事故の発生、俺たちのクリスマスは一気にクライマックスを駆け上がっている。
エースが真剣な眼差しで報告にくる。
「顧客の始業時間に間に合いません」
あぁ、知ってるよ。この前の勢いで顧客にも報告してくれよエース!
、、と言いたいところだがその責任を負うのはPMである俺、そしてまだ出社してこない営業部長。クリスマスだからってのんびりしやがって、つーか誰だよ作業してた奴ちっきしょ、、、
、、、じゃない。
すーはーすーはーすーはー、、、
深呼吸しながら壁の啓発ポスターを見る。
「事故発生、原因究明後回し!」
いつもは大嫌いな自社経営陣だが、このポスターだけはナイス試みだ。そう、そうなんだ、原因究明は二の次でいい、今は復旧に集中だ。
「焦るな、マニュアル通りに切り分け、復旧を急ぐぞ」
冷や汗をかきながら笑みを浮かべる。
「おーい、ホワイトボードもってこい。対策本部つくるぞー」
極めて穏やかな声で部下に呼びかけた。
「そんなわけで大障害だ」
ようやく出社してきた営業部長、真っ青を通り越して真っ白だ。今回くらい踏ん張れよお前、今から地獄の客先缶詰だぞ?
あんたは客先、俺は現場で対応を続ける。
「え、、、」
え、、、じゃねぇよ。どうせ客対応はつなぎっぱなしの電話越しに俺がやるんだ、お前は適当にお茶濁しとけばいい。
捨てられた子猫のような目にいら立つ。異動してきたとき「最速昇進の男、最速でこのチームを黒字化してみせます!」って挨拶してドン引きされてたじゃねーか、あの勢いはどこいったんだよ!?
「いいか、よく聞け」
とにかく謝れ
しかし約束はするな
全ての質問に調査中で切り抜けろ
あんたが集中すべきは「調査中」フレーズのバリエーションだ。客を飽きさせず、引き伸ばすんだ。いいな?
「わ、わかった、、、」
トラブル中、客への状況報告ほど事態を悪化させるものはない。調査中を連呼し作業時間を確保するために人柱は必須だ。
「で、どんな感じだ?」
解析中のチームに声をかける。
「PM、それが、、、」
データベースが、ありません。
「は?」
何言ってんだこいつ?いやアクセスエラーはわかるが、ありませんってなんだよハードトラブルか?
作り笑顔も限界に到達した時だ。
「ちょっとこちらへ」
青ざめたエースに招かれ、別室へ向かう。ここは下請け会社のSEたちの作業場。原因が分かったのか?
ドアを開ける。
「あの、、、」
涙目の若者が立っていた。
「すいません、すいません、、、」
「本当に申し訳ありません、、、」
うわごとのように繰り返す。
どうやら精神に支障をきたしているようだ。
そして俺は、全てを悟る。
「あの、実は昨夜の作業で、、、」
聞きたくねぇな原因究明は後回しって言ってんじゃないか?
「開発環境と間違えて、、、」
それ以上言うんじゃない
言ってくれるなこの野郎
「商用データベース、、、」
言うなって言ってんだろ
うわぁぁぁぁぁぁああああああ
泣き崩れるSE。
その横には、空になった一升瓶が落ちていた。
MALIS