フェズから山岳地帯をぬけサハラ砂漠を目指すMALIS。道中、ベルベル人のドライバーから王政への愚痴を聞き盛り上がるのだった。
(前の記事:ベルベル人と王政)
砂漠を見て、しばし息をのむ。
人生二度目の砂漠だ。一度目は中国の内モンゴル自治区にあるホルチン砂漠だった。でも、規模が全然違う。
ドライバーともしばしお別れ。
明日また同じ場所で会おうと約束し、ラクダに乗る。
テントまでの行進は他の観光客と一緒だ。
ラクダというのは基本的にとてもおとなしい動物で、ゆったりと歩くため乗り心地はとてもいい。インドの象の100倍はいいだろう。ただ、前のラクダがずっとオナラをし続けるのにはまいった。乗っていたのは韓国人の男の子。「すいません、、、」と日本語で話しかけられた。「いえいえとんでもないです、、、」と返し、二人で笑い転げる。
彼は香港出身と思われる女の子と一緒に来ており「君と一緒なら僕はどこでも楽しいよ!」と何度も話しかけていた。返事はなかった。まだ友達なのか、恋人なのか、ハネムーンなのか、聞かなかったけど報われるといいな、その恋。
ほどなくテントに到着。
ここから街は見えない。
ラクダはリラックスして草を食べている。
草を食べているラクダを眺める。
なんだか平和だなぁ。
砂漠のど真ん中でぼんやりと思う。
砂漠の夜は寒かった。
星空が素晴らしいと聞いていたけど、たしかに地元より凄いかな、という印象だ。田舎で育つとこういう時に感動が薄くて残念な気持ちになる。
それよりも、キャンプファイヤーを囲んで聞いた音楽は一生忘れないと思う。
不思議なリズムに不思議な歌。
きっとベルベル語なんだろう。
音楽の後はなぞなぞだ。
一問もわからず
"JAPAAAAAAAAN!!!!"
と何度も叫ばれたけど、仕方ない。
諦めて夜空を眺めていると、流れ星が走った。
豊かな国だなと思った。
翌朝、また砂漠を超えて街に戻る。
昨日と同じ場所でミントティーを飲んでいるドライバー。
笑顔で迎えてくれた。
と同時にWifiが回復する。
姉から「モロッコ人はミントティーを飲んでいるから歯がないって今NHKで言ってるけどほんと?」とメールが来ている。「少なくとも目の前のドライバーに歯はあるよ」と返す。どんなニュアンスだったか知らないが、フェイクニュースじゃないだろうか。
彼にならい、ミントティーをいただく。
この地域では、ミントティーを「ベルベル人のウィスキー」などと呼ぶそうだ。戒律でお酒が禁止されているモロッコならではの言い回し。小さなグラスに入れられた褐色の飲み物ーー。ウイスキーに見えなくはない。
それにしても、どのミントティーも砂糖がたっぷり入っており確かに歯には悪そうだ。フェズにも歯医者が多かったなぁなど思い出す。
しばし休憩の後、次の目的地に向かう。
道中、何度か街に立ち寄る。
どこの街でも、ほとんどの地元女性はヒジャブ(スカーフ)をかぶっている。
イスラム教徒だ。
「俺たちの祖先はイスラム教徒じゃなかった」
アラブ人が持ち込み、祖先たちは改宗した。でも本当の目的は、俺たちを支配するためだ。宗教の力でベルベル人を支配したのさ。
そう言う彼も、おそらくイスラム教徒なのだろう。
宗教の複雑さを垣間見る。
そうこうしているうちに目的地が見えてきた。
何もない街。
外国人が珍しいのか、歩いているとまじまじと見られる。かといって客引きや物乞いをしに来るわけでもない。豊かではなさそうだが、貧困にあえいでいるようにも見えない。小学校の壁にはベルベル語が書かれていた。ここには王政の力が及んでいないのだろうか。
フランス語しか話せない宿のオーナーと身振り手振りで意思疎通をし、部屋に案内してもらう。
窓から小川が見える。
ようやく落ち着ける。
鍵をかけ、ベッドに寝転んだ。
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MALIS