ようやくサハラ砂漠に到着したMALIS。寒い寒い、そして楽しい砂漠の夜をすごしたのち、アトラス山脈の小さな村で一泊するのであった。
(前の記事:砂漠の夜を過ごす)
「ゆっくり休めたかい?」
ドライバーは今日もミントティーを飲んで待っていた。
マラケシュを目指し、アトラス山脈を越える。
途中立ち寄ったアイト・ベン・ハッドゥはとても美しかった。
いろんな映画の舞台になっている場所らしい。カスバと呼ばれる要塞化された村に、今もベルベル人が暮らしている。
しかしそれ以上にだ、アフリカ最大規模のソーラー発電を見かけた感動よ。
授業で習ったやつだああああああ!
興奮して写真を撮りまくる私。ドライバーは不思議に思っていたかもしれない。この話は詳しく書きたいけれど、2話ほど増えてしまいそうなので割愛しようかな。
マラケシュに近づくにつれて、舗装されていない道が増える。「4年前から工事をしているんだ、きっと2030年になってもしてるよ」あきれ顔でドライバーが解説する。車酔いしそうだな、と目を閉じた瞬間、眠りこけてしまった。
気が付けばマラケシュ。
なんだか損した気もしたけど、おかげで気分絶好調だ。
ドライバーとはここでお別れ。最後に、私の持っているガイドブックには「モロッコはもともとベルベル人の国だ」ってちゃんと書いてあるよ、と教えてあげた。
これだから日本はいい国なんだよ!
とても喜んでくれた。
「この広場でタクシーを拾ってはいけません」
「メーターは信用なりません」
「50dhを目安に交渉してください」
翌朝、流暢な英語を話すスタッフに説明を受ける。
隣のソファに若い日本人カップルがいるのだけど、宿泊客が書くべき必要書類を宿のスタッフに書かせている。身分証明用にスタッフが確認していたパスポートを一言「返せ」といい奪い返していた。
なんだか気まずくなりながら、目的地に向かう。
目指すはマジョレル庭園だ。
フランス人画家のジャック・マジョレル氏が造園し、イヴ・サン=ローランが買い取った庭ーー。各種ガイドブックに書いてあった以上のことはよくわからないけれど、とにかく観光客がこぞって向かう先らしい。
庭は美しく整備された新市街にある。宿スタッフのアドバイスのおかげで混雑も混乱もなく、すんなり中に入る。
確かに美しい。
でも、道中もっと美しいカスバや庭、宿を見てきたせいか、少し感動が薄い。なんというか、、、人工的すぎるのかな。
そんな庭園で最もインパクトがあったのが、ベルベル人に関する美術館。
古い衣装や生活用具が多く展示されており、彼らの文化を理解することができる。オシャレにうるさい民族なんだな、、、過剰に重ねられたネックレスやピアスを見て確信する。そういやドライバーも指輪をたくさんしてたなぁ。
気が付けば、一番時間を使ってしまった。
庭園の横にはイヴ・サン=ローラン美術館がある。世界に2つ、もう一つはパリにあるらしい。
パリはともかく、なぜマラケシュにあるのか?
実は、イヴ・サン=ローランはアルジェリア出身。とはいえ、彼が生まれたころのアルジェリアはフランス領だ。彼自身はアルジェリア独立戦争時に、フランス軍として戦争に駆り出され精神に異常をきたす経験をしている。
それ故なのか、はたまた生まれ育った環境で身につけた価値観の在り方なのか、世界中の民族衣装や文化に強い興味を示していたイヴ・サン=ローラン。モロッコをモチーフとしたコレクションも発表している。
老後はマラケシュに移り住み、遺灰はマジョレル庭園にまかれた。
彼の仕事の軌跡を映像で見る。
ランウェイを通じて、世界に多様な文化を発信し続けてきたイヴ・サン=ローラン。有色人種のモデルを多く起用したのも彼だった。
それはファッション以上の意味を持つ。
画一的な美の在り方に一石を投じる革新的な行動だったんだろう。
感銘を受けながら、彼のコレクションを集めたコーナーに向かう。
正直言って、微妙だった。
見る順番を間違えたのかな、、、先に見てしまったベルベル人の展示がちらつく。それらと比べると、どうしてもオートクチュールが軽く見えてしまうのだ。メトロポリタン美術館のファッション展覧会にはこんな印象をうけなかったから、展示の仕方の問題なのかもしれない。
何とも言えない居心地の悪さに、足早に鑑賞をすまして外に出る。
併設カフェが一番良かった。
翌日からは、マラケシュのメディナ(旧市街)を中心に歩いた。単車が多いので、砂ぼこりでのどが痛くなる。
客引きが激しい。人が多い。市場はカオスだ。「市場でフルーツジュースを買わないように、水が悪いのであたります」宿のスタッフの言葉を思い出す。
上を見上げると、スペイン風の屋根にイスラム文化を感じさせる幾何学模様の壁と柱、そこにベルベル文化と思われるテキスタイルが掲げられている。見上げていたら、後ろからきたバイクにクラクションを鳴らされた。
ショートカットしようとして、地元客しかいない道に迷い込む。
これがマラケシュか。
身の危険は感じないけど、安全も感じない。
マジョレル庭園に観光客が向かう気持ちが、今になって少しわかる。あの空間は外国人にとってのオアシスなんだろう。
喧噪の旧市街。
洗練された新市街。
イヴ・サン=ローランがマラケシュで愛したものはなんだったのか。
きっと彼はその全てだと答えるんだろうな。ベルベル人の文化から、イスラム文化、植民地時代に進んだスペイン・フランスとの文化融合ーー。その複雑さに彼は惹かれたのだろう。会ったこともないデザイナーに思いを馳せる。
マラケシュには3日間滞在した。
出会ったドライバーのことを思う。道中で見たベルベル人の暮らしを、フランス人しかいない新市街を、観光客しかいない美しい庭園を思う。
もう少しここに耽っていたいのに、
もう戻らないといけないのか。
コーランを聞きながら、夕暮れを眺めた。
(完)
MALIS