2018年11月に発動されたイラン原油への経済制裁。世界各国にイラン産原油の輸入を禁ずる厳しいものでした。
とはいえ11月時点では、主なイラン原油輸入国である日本、中国、韓国、インド、台湾、トルコ、イタリア、ギリシャの8か国は制裁措置を免除されていました。
突然の原油輸入停止は経済に大混乱を引き起こしかねませんからね。
※制裁の背景については過去の記事をどうぞ
イラン経済制裁- 無力な仮想通貨と泥沼の民主主義
イラン×仮想通貨
あれから半年。
ついに、経済制裁見直しの時期がやってきました。
4/22朝、トランプ政権より発表。
ポンペオ国務長官によると、
イラン産原油の制裁措置免除は、5月2日までとする。
即ち、イラン産原油を "全面禁輸" とする。
この動きをうけて、原油価格は上昇。
主要指標の一つであるBrent原油価格は74ドル/bblを超えています。
さて、張本人であるアメリカにとって、今回の制裁措置はどんな意味を持つのでしょうか?
<マイナス面>
当然、原油価格上昇が一番の影響ですよね。
トランプ政権にとっては、選挙前のガソリン価格上昇は支持基盤を失うことになるので当然ネガティブです。
<プラス面>
一方で、トランプ支持層には多くの「イラン嫌い」がいるのも確か。アメリカの影の支配者とも言われるユダヤ人もイラン嫌いです。ユダヤの国、イスラエルの首相も
"The decision by President (Donald) Trump and the United States administration is of great importance to increase the pressure on the Iranian terrorist regime,"
"トランプ陣営の決定はイランというテロ政権に対し圧力を強める大変重要なものだ"
と即座に賞賛をおくっています。
きな臭くなってきました。
いや、もともときな臭さしかないんですが。。。
石油大国であるイランが原油輸出できなくなったら、世界の経済はどうなってしまうのでしょうか?
思い出してください。
イランと仲が悪いのは???
中東覇権を争うサウジアラビアですね?
アメリカは、サウジアラビアとUAEに対し石油生産と輸出の増加を要請しています。
近年シェアを落としているサウジアラビアにとっては願ったり叶ったりの状況。さらに石油価格低迷で大打撃をうけていた国内経済も、一気に回復へ。
いいこと尽くしです。
(増産すると価格が下がる&現在生産を絞っている他のOPECメンバーへの配慮は必要になりますが)
対するイランは、今回の発表直前&直後に
「ホルムズ海峡閉鎖するぞ」
と脅しています。
ホルムズ海峡封鎖はサウジアラビアにも痛手。
原油輸出の主要ルートですからね。
下のグラフは通過する原油の量↓
茶色で示されたホルムズ海峡(Strait of Hormuz)は世界最大です。
この脅しに対抗すべく、サウジアラビア側から即時に出てきた情報が
「海峡封鎖に備えて、パイプラインの準備は進めている」
サウジアラビアは東部に油田がかたまっています。今はホルムズ海峡を通ってペルシャ湾経由で輸出しているのですが、反対側の紅海に抜けるパイプラインを増強・延伸し、海峡を避けようとしているのです。
とはいえこれは以前から計画が進んでいたもの。
情報を小出しにし、牽制合戦が続いているようです。
では世界各国への影響はどうでしょうか?
即座に反応したのがトルコです。
トルコ外相は「今回の決定は平和と安定に貢献しないどころかイランの人々を傷つけるものだ。トルコは制裁措置に従わない」と対立を明確にしました。
トルコは元々イラン寄り。さらに、現トルコ政権は経済政策がうまくいっておらず国内から厳しい目を向けられています。ここに原油の禁輸とくれば大打撃でしょう。
しかし、最も注目されるのは中国とインド。
中国は最大のイラン産原油輸入国です。
インドも中国に次ぐ輸入量。
この二か国はアメリカとの関係も複雑です。過去のイラン経済制裁時も、中国は禁輸していません。さらに中国は米中貿易交渉が続いている最中。いかに対応するか、正念場でしょう。
最後に日本はどうでしょうか?
実は、日本は経済制裁が開始されてからイラン原油輸入量を減らしてきています。過去のオイルショックのような混乱は生じないはず。とはいえ、影響は少なくありません。石油産業に関わる方々は、しばらく大変な時期が続くでしょう。
アメリカの発表を受けて、簡単に状況をまとめてみました!
トランプ氏にとっては公約を遵守しているだけ。選挙にも有効と判断しているのでしょう。しかし、その影響は世界中に広がります。
そもそも、アメリカからイランへの経済制裁は「制裁自体の妥当性がない」と国際社会から厳しく批判されています。誰も納得しないまま、原油価格のみならず世界情勢が混乱し、中東和平が遠のいていくーー。
私たちはそんな変化の最中にいるのでしょう。
MALIS