平成も終わろうとする最中、こんなニュースが飛び込んでまいりました。
個人的には、「Hanko文化v.s.デジタルワールドの抗争」ってのはなかなかエモくてぐっとくるんですが、そんなことが言えるのは私が今国外に居るからでしょう。
まず、ニュースをちゃんと読んでみましょう。
Huffpostによると、
"このデジタル化戦略の中には、法人の登記に際して印鑑の義務化をなくすため、商業登記法改正を2019年中に行い、2020年までに任意化する目標が明記されていた。法務省の担当者によると、これを受け、2019年中の国会での法案審議をする予定だったという。
ただ、現在会期中の通常国会には「法案の中身が出せる状態ではない。準備が整わず提出できない」と話す。"
つまり、印鑑レスを含む「デジタル化戦略」法案の中身調整が遅れているため、提出を見送ったということ。
ここでいう中身調整とは、法案そのものの審議もありますし、利害関係者との調整もあるでしょう。印鑑問題は後者が大きそうですね。夏の参院選がネックのようなので、それが終わると再度提出の可能性は高い。
で、なんで参院選がネック?
こんなツイートがありました。
引用されているのは、自民党衆議院議員の中谷真一さんが2018年11月にツイートしたもの。中谷真一さんは山梨出身、「ハンコの町」として知られる市川三郷町は山梨にあります。ツイートは「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」通称はんこ議連の設立についてのもの。どうでもいいけど写真、男ばっかだなw
ではここで、印鑑市場を確認しましょう。
現代印章の統計によると印鑑の市場規模は
ただし法人設立に関する市場は12-30億円と言われています。
提出されようとしていた法案は、印鑑なしでの法人登記を認める(つまり選択制)ものなので、一気にこの市場が消えるわけではないでしょう。既に使っている人たちが、いきなりデジタルに移行するとは思えません。
しかし、印鑑で食っている人々が恐怖を感じているのは間違いありません。
その激震地となるのがこちら。
山梨県西八代郡にある町。過疎化・高齢化が進んでおり人口は15,673人(2015年時点)になています。主要産業は、花火、和紙、そして印鑑。
特に印鑑は山梨県における生産量の70%、全国生産の50%を占め、日本一の印鑑の里であるとのこと。全国の印鑑の半分はこの町からきているんですね。印鑑廃止で大打撃をうける地域といえるのでしょう。
とはいえ、この町の命運だけで参院選に影響を及ぼすでしょうか?
いいえ、
印鑑をめぐる動きはもっと大きなものです。
それでは、印鑑にかかわる団体を紐解いてみましょう。
ざっと調べただけですが、、、
もともとは、デジタルガバメントが進むという動きをうけて2018年1月に「全国印章業連絡協議会」が設立されました。
政府との意見交換会が甲府でおこなわれた様子。
しかし、6月に「デジタルファースト法」が閣議決定され通常国会で法案提出(つまり今回のすったもんだ)となったことから、さらに危機感がつのり政治連盟をつくるに至ります。
そしてできたのがこの「全国印章政治連盟」。
配下には
・公益社団法人全日本印章業協会
・全国印判用品商工連合会
・全国印章業経営者協会(JS会)
・LPC
・全国印章技能士会連合会
が名を連ねています。
今回、提出を阻止できたということは政治連盟が機能したということでしょう。
この全国印章政治連盟と連携しているのが、前述のツイートで出てきた「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」です。全国印章政治連盟が声がけして作られたといった方がよいでしょう。
会長は自民党の衆議院議員、竹本直一さんのようです。
実は、反対しているのは印鑑業界だけではありません。
・日本弁護士連合会
・日本司法書士会連合会
も反対意見を表明しています
彼らの意見は興味深く、”法人設立にあたり印鑑レスをすすめても、銀行設立で必要なのだから結局意味がないだろう” というもの。
一理ありますね。
が、じゃあなんであなた達、わざわざそんなこと気にするの?というと、弁護士、税理士は法人設立のオンライン化で圧倒的にワリをくう人々なんです。法人設立が面倒なので彼らに丸投げする人たちが多いんですよね。
ちなみに「公証人による定款認証の簡略化」もデジタルファースト法には入っています。そして当然彼らは反対しています。
定款認証とは、「法人設立時に作成した定款を司法書士か弁護士に認証してもらわないといけない」というもの。デジタルファースト法で簡略化されてしまうと仕事がなくなっちゃうんですよね。
さて、反対する方々の分布が見えてきたでしょうか?
ここまで読んで、
「なんて憎いやつらだ!」
と思った法人設立経験者は多いのではないでしょうか?
私の立場も表明しておこうと思います。
大学入学時、親から自分の印鑑をもらった時はとても嬉しかったですね。印鑑入れの袋もめちゃ綺麗でまさに伝統って感じです。今でも大切にしています。
一方、社会人になってからは会社が電子稟議だったこともあり印鑑を使う機会はほとんどなく、時々社外で求められてもサインで通してました。
そんな暖かな印象が一変したのは、
法人を設立した時。
いやぁ
印鑑への憎悪が急激に高まった瞬間です。
とはいえ、新たな法案が出たときにロビイングが発生するのは仕方がないこと。反対している方々は食っていくことに必死ですから理解すべきです。
一方、政策決定者はどうでしょうか?
政策を作るにあたり、
・どれだけの国民に利するのか?
・将来の成長にどれだけつながるのか?
は大きな問いかけです。
今回の法案見送りは、これらの問いの回答として妥当なのでしょうか?
大きな疑問が残ります。
そうはいえど、政治家にとっては
・票田にどれだけ影響するか
がとても重要なのでしょう。
民主主義ですから。
汚い世界だ!と言うのは簡単です。
しかし、これらの「力学」を理解したうえで、政策に対しては声を上げていかないといけないのだと思うのです。
さて、印鑑の話からはずれますが、新しい産業に関わる方はとかく「ロビイング」を軽視しがちではないでしょうか?
政治というと耳を塞ぐ方もいますが、紛れもなく政治は経済活動に大きく関わっています。
例えばUber。
彼らがロビー活動に使った費用は、2018年だけで
にのぼります(OpenSecrets.org)。
もちろん、こんなロビー活動できるほどの余裕がある企業はなかなかいないんですけどね。
ただ、政治家は票田となるグループが明確になればなるほど、社会が騒げば騒ぐほど気を使うのも確かなのです。今回は全国印章政治連盟が証明してくれました。
政治への働きかけは大切、
そして影響を与えることができるのです。
あなたが思っている以上に。
話題の「法人設立印鑑レス見送り」について調べてみました!
今回は見送られてしまいましたが、次の国会成立を目指して、デジタルファースト法で利する方々が大攻勢をかけることを期待しております。
そうしないと、
なんて国になりかねないですから。
それではごきげんよう。
MALIS