2歳の時。
西川口のボロアパートに、家族3人で住んでいた。
ここは、12畳1K風呂トイレ無し、家賃1万5千円のアパート。
このアパートの住人の中に、豊田さんと言う18歳の女性が居た。
この女性は、大学受験の為このアパートを借りて受験勉強をしていた。
実家は、歩いてでも行ける場所にあるらしい。
実家で受験勉強をすると、友達や周りがうるさくて集中できないみたいだ。
でもこの時代、別荘を借りて受験勉強をするなんて金持ちのやる事だった。
きっと豊田さんの家は、もの凄く大金持ちなのだろう。
豊田さんは、母親と仲が良くて一緒によく買い物にいていた。
2歳の俺も、もちろん一緒に買い物について行った。
俺は、豊田さんの事をトヨちゃんと呼んで、凄く甘えていた。
トヨちゃんは、2歳の俺を可愛がってくれて、よく遊んでくれた。
この頃トヨちゃんの家に、プラレールを持って、よく遊びに行っていた。
母親に、トヨちゃん家に行ってくると言うと、1人で行かせてくれる。
トヨちゃんが住んでいる場所は、同じアパート1階の1番奥の部屋。
俺の住んでいた場所は、1階の1番手前の部屋で凄く近かった。
この時トヨちゃんは、勉強の手を休め一緒に俺と遊んでくれていた。
俺がプラレールを広げ、トヨちゃんがプラレールを繋げてくれる。
そして電車を走らせると俺はトヨちゃんの膝の上で電車を見て喜んでいた。
しばらくすると、母親が一緒に買い物に行こうとトヨちゃんを誘いに来た。
急いでトヨちゃんとプラレールをかたずけ、一緒に買い物に行った。
俺は、この時いつもトヨちゃんに抱っこをせがんでいた。
母親は、おんぶがメインでなかなか抱っこをしてくれない。
でもトヨちゃんは、いつも抱っこをしてくれて嬉しかった。
そして一緒に買い物に行くと、母親が毎回トヨちゃんの荷物も持っていた。
トヨちゃんは、俺を抱っこしているので荷物が持てないからだ。
俺は、そんなのお構いないしで抱っこされたまま寝てしまっていた。
こんな事態になっていたのは、俺のわがままのせいだった。
トヨちゃんが荷物を持つと言いうと、俺は母親におんぶされる事が解った。
俺は、おんぶより抱っこが大好きだから、この時泣いて嫌がっていた。
だから毎回、母親が荷物持ち係になっていた。
とある昼下がりの午後4時。
トヨちゃんの勉強も1区切り付き、休んでいる時間がある。
その時間を狙って、俺は遊びに行くように言われていた。
母親がトヨちゃんの勉強中に、俺がいつも遊びに行くから注意された。
仕方ないので、毎日午後4時まで遊びに行くのを我慢していた。
たまに、トヨちゃんの方から散歩に行こうと母親を誘ってくる時がある。
俺はこの時、もちろんトヨちゃんの抱っこで一緒に散歩に出かけて行った。
行きつけの喫茶店に行く途中、毎日俺の為によってくれる所がある。
それは、駅前の電車が見える場所。
俺は、プラレールの影響で電車がとても好きになれた。
家も、電車が通っている場所の真横のアパートで、電車は身近だった。
この駅前の電車が見える場所は、電車が目の前を通り迫力がある。
この場所でトヨちゃんに抱っこされながら電車を見るのが大好き。
いつもトヨちゃんが、電車が来ると色を教えてくれた。
黄色い電車、赤い電車、青い電車、そう言ってくれていた。
この頃走っていた電車は、京浜東北と東北本線。
この電車は当時、国鉄のお古の電車を使い走っていた。
しかも同じ路線の電車なのに、色がバラバラ。
おかげで、毎回すごくカラフルな電車が走ってきて飽きなかった。
しばらくして我々家族は、引っ越す事になった。
それは、母親が妊娠したからだった。
家事や俺の面倒の負担を減らす為、おばあちゃんの所に引っ越す。
トヨちゃんとのお別れの日、一緒に最後の買い物に行った。
行った場所は、駅前のデパート。
そこでトヨちゃんは、俺におもちゃを買ってくれた。
買ってくれたのは「タイムボカン」のアニメに出てくるロボット。
確かテントウムシ型の「テントウキ」というロボット。
俺は、嬉しくてトヨちゃんに抱っこされた状態で、背中を叩いてしまった。
帰り道、俺はトヨちゃんにおんぶされて歩いていた。
俺は、おもちゃ屋の帰りに寄った喫茶店で寝てしまっていたようだ。
少し目が覚めた時、母親がトヨちゃんにお礼を言っているのが聞こえる。
でも、俺はそのまままた寝てしまった。
そして目が覚めた。
俺は「テントウキ」を持って即トヨちゃんの所に遊びに行こうとした。
でも、もうそこは、電車の中だった。
引っ越し先に向かっていたのだ。
俺は、トヨちゃんとの最後のお別れが出来なかった事が残念だった。
今でも気持ちに引っかかっている。
生きてる内に、もう1度会ってみたいものだ。