7歳の時。
お祖母ちゃんの家に遊びに行った。
この頃からお祖母ちゃんは、昔の思い出を話してくれるようになった。
それは、第2次世界大戦中のお話。
お祖母ちゃんは、着物の生地問屋に生まれ裕福な生活をしていた。
しばらくして、事業を拡大させる為に満州へ渡って行った。
そこで結婚して、平和に過ごしていた。
でも、日本が戦争に負けて満州にはいられなくなった。
その満州から日本に命からがら逃げて来た。
逃げる時、検問所には、アメリカ兵がいた。
この時お金は、全て没収されてしまう。
そこで、子供のおむつの生地の中に入れて隠して持ち帰ったそうだ。
こんな感じの思い出を、色々話してくれていた。
お祖母ちゃんは、満州から帰る時の事を色々俺に話してくれていた。
満州から帰還できない日本人を、脱出させる為の帰還作戦が実行された事。
その作戦のお陰で、お祖母ちゃんは、日本に帰って来れた事。
当時の俺には、理解できなかったが今では全部理解できる。
そんなある日お祖母ちゃんの物置を勝手に漁っていたら古い本が出て来た。
その本は、当時の俺には読んでも理解できない物ばかりだ。
その姿を発見したお祖母ちゃんに、慌てて本を取り上げられてしまった。
この時、随分不自然な慌てようだった事を覚えている。
そしてお祖母ちゃんは、こう言い残した。
この本は、俺が10歳になったら見せてあげると。
俺は、なぜ10歳?
そう思った。
恐らくこの本の内容は、10歳になっても理解出来ない様な難しい物なのに。
そして俺は10歳になり、当時お祖母ちゃんが言っていた事を覚えていた。
その事をお祖母ちゃんに話すと、仕方ない顔をしてあの本を見せてくれた。
それは、戦争の時の本だった。
難しい文字がたくさん書かれていて、読んでも内容が理解できない。
どうやら歴史の教科書には載せられない国秘の事が書かれているようだ。
理解しようと繰り返し、読んでみるがやっぱり理解できない。
大日本帝国の言葉の表現は、俺には難しい。
そして何だか、吐き気がする強制感だった。
俺はこの本を、嫌いになり読むのをやめた。
でも、その本たちの中に、写真集らしき本があった。
それは、原爆投下後の広島と長崎の写真集だった。
この本を見て良いかと、一応お祖母ちゃんに聞いてみた。
そうしたら、この本こそが当時見せられなかった本だったという。
俺は、この本を恐る恐る開いてみた。
そうしたら、原爆投下直後の様子が映し出されていた。
この本の内容は、原爆投下直後から1週間の風景。
それは、原爆投下場所から半径500mは、建物も人も蒸発して何もない。
真っ黒い地面の荒野が広がっていた。
半径2㎞以内の物や人は、全部硬い木炭になっていた。
建物はともかく、人はその姿のまま木炭になっている。
悲劇的な風景だった。
そして、半径2,5㎞以内の建物は、火災で燃え尽きていた。
でも人は、なぜか溶けている。
やけどではなく、溶けていたのだ。
大やけどの被害は、半径3㎞以上先の人達だった。
俺は、原爆の威力を目の当たりにして悲劇を感じた。
この風景を見て、悲しいを通り越して自分の無力感に襲われた。
原爆投下後、人はもう何も出来ずに死ぬしかないんだなと感じた。
その中でも助かった人が居た。
偶然コンクリートの壁があった場所にいて、爆風を逃れた人。
偶然地下の図書館にいて、爆風を逃れた人。
その偶然生き残れた人が、この写真を撮ったらしい。
この写真集は、今でも実家にあるが見る気がしない。
でも、そろそろこの写真を撮った人の事を調べてみようかな。
そして、写真に写っている当時の状況も調べ見るのも良いかもしれない。
そこに居て生き残った人が、まだ生きていれば。
その情報は、貴重な歴史の情報になる。