俺が4歳の時、弟が1歳半位になっていた。
その頃の弟は、つかまり立ち歩きが徐々に出来るようになっていた。
でも、まだすぐに倒れる。
弟は、立ち歩き練習器具を使っていた。
それは、木箱に持ち手がとタイヤが付いた物だった。
名前は確か「ベビーウォーカー」。
弟は「ベビーウォーカー」につかまり、歩いてはすぐに倒れる。
そしてまた「ベビーウォーカー」につまり、歩いてはすぐに倒れる。
まだ弟は、足腰の力が全然付いていなかった。
そんなに何度も倒れて、痛く無いのか不思議だった。
俺はそれを毎日見ていた。
そして、その姿がとても面白く、歩いては転ぶ姿を見て毎日笑っていた。
俺はこの時、弟にはまだ感情が無いと思っていた。
ある時、その姿を見ていつもの様に笑っていた。
そうしたら、弟が突然俺の方に向かってきた。
しかも立ったまま走って!
俺は何事かと思ったが、そんな暇なく弟は俺に体当たりしてきた。
俺は、その勢いに負けて押し倒されてしまった。
そして弟は、俺をマウント状態にした。
その状態で、突然弟が俺の顏を殴り始めて来た!
俺はびっくりして、何が起こったのか解らなかった。
でも、なんだか猛烈に怒っているようだった。
俺は、弟に殴られて泣いてしまった。
痛くて泣いてしまったのではなく、突然の出来事に驚いて泣いてしまった。
俺は、この事を母親に言うと、立ち歩きを笑っていたからだと言われた。
弟は、俺がからかっていた事に怒ったのだった。
この頃の俺は、弟にはまだ感情なんて無いと思いこんでいた。
なのに、突然感情を露にして俺に向かって来た事にびっくりした。
しかも、まだ歩けないと思っていたのに、2本足で走って来た!
もう殴られたのなんてどうでも良かった。
このありえない現実を目の当たりにした俺は、弟に恐怖した。
そして、もう弟を笑えなくなってしまった。
この後、弟はいつもの様に「ベビーウォーカー」を使っていた。
そして、歩く練習をしている。
俺はその姿を見て、こいつもう歩けるのに練習しているフリをしてる。
そう思っていた。
そして、弟が倒れると俺の顔は引きつった。
また、突進して殴られるのではないかと思い…。
もう、弟が倒れる姿は笑えない。
俺の弟は、俺と真逆の人間性になっている。
同じ親を持ち、同じ生活をしていたのに。
顏も全く違う。
全然似てない。
俺はバイクが好きなのに対し、弟は車が好きだ。
俺は友達が少ないのに、弟は友達がたくさんいる。
俺は全くお酒が飲めないのに、弟は酒豪だ。
本当に兄弟なのか、たまに怪しく思う時もある。
もしかして俺は、江戸川土手で拾われたのではないか?
そんな気がしてしまう程、全く違う兄弟。
ただ1つ共通してるのは、互いの生き方がうらやましく感じてる。
俺は結婚できなでいるが、弟は結婚できている。
俺の生活スタイルの、どこが良いのか全く分からない。
きっとお互い、他人の食い物は美味しそうに見えるのだろう。
俺も弟も、どっちもわがままだ。