青空文庫。
幻想文学の名短編と誉れ高い本作ながら、いつでも読めるのが仇となってなかなか手をつけられずにいたところ、先に読んだ諸作、特に「日本橋」が存外に面白かったので、ならばこれもと読み始めた次第。
固より長編と短編、聖俗二極たる花柳界と幻想譚の違いを考慮しても、スラスラと流れるようでいて読点多めの特徴的文体は自家薬籠中の物。
蛭の雨に降られる恐怖や神秘とエロスの交錯する行水、親仁や白痴の若者がもたらす滑稽さと、どのシーンも表現の巧みさで格調高くなる。
柔らかな語り口と豊かな比喩の結実した、まさしく名作。