前に読んだ『魔術師』の一つ前に当たる長編。
いわゆる通俗ものの第一弾だが、これは作者の意図というより連載元たる講談社の方針らしい。
女優の誘拐事件辺りで真犯人の見当は付くし全体の三分の二ほどで正体も明かされるが、その後の犯人視点による倒叙的冒険活劇を蛇足と取るかエンタメと取るかで評価は大いに分かれそう。
女優のその後とか従来の路線からは考えられない展開だし。
猟奇の果てをパノラマで見せんとする乱歩らしさは健在なので、別段ミステリ乱歩に拘りがなければ、通俗路線の先駆として割り切って楽しむのもありだろう。
自註自解より抜粋→"しかし、噂に聞いていた書き直しを命ぜられるということも 、私の場合には一度もなかったし、編集者の対応も他社に比べて丁重をきわめ、原稿料も格段に高いので、つい私は講談社党になってしまって、同社の諸雑誌に連載ものを書き続けるようになった"
……先生、あけすけに書きすぎです。
まあ、おかげで筆が進むようになったのだから喜ばしい限りではありますが。