

偶々同時期に読んだ塩卓悟氏の「唐宋人肉食考」に思いを馳せ、沙漠の回廊を抜ける隊商貿易を牽引してきた粟特(ソグド)人の描写に大いに唸らされ、居るのに見えない存在に純正音律が過り、死の重層的意味合いに陰摩羅鬼が過る。
容赦なく繰り出される唐代のタームに、典型的巻き込まれ型の裴進士と共に翻弄されつつ、誰が探偵なのか、何故にこのタイトルなのかの問いは片時も頭から離れず、読後に抱くのは只々ストレートな喜びである。
やはり『火蛾』の作者である。
それも数段スケールアップしての帰還である。
これに勝る喜びはない。
曲者揃いのメフィスト賞受賞作にあって、小粒ながら異端のテーマと王道ミステリのハイブリッドを易々と達成した処女作の刊行以来、全く音沙汰のなかった古泉迦十の名を再び世に知らしめるであろう本作は、既に日本推理作家協会賞を受賞している。
殊能将之氏の逝去以来、メフィスト賞作家の作品を読むことはほぼ絶えていたが、久方振りに新作を追う気になってきたところだ。
三作目は24年後、なんてオチはつきませんように……。










