荒川弘先生の銀の匙が約9年の連載を完結した。
本作は普通(という言い方は嫌いだが)の中学生だった八軒勇吾が北海道の農業高校に入学し、学業と実習(こっちが主に重い)に悪戦苦闘しながら学生生活を送るストーリーである。夢、友情、恋愛、挫折など諸々こもった青春ど真ん中のお話しである。
日本(だけでなくおそらく世界でも)の農業の現状は厳しい。仕事はキツく、収入は低くて不安定で、将来は見えず、競争は激しく、自然環境に左右される。しかし生物にとって不可欠な食料を生産する農家や酪農は絶対必要な産業である。しかしやはり報われない仕事であることもまた否定できない。このマンガでは随所にその現実が描かれている。
多くの農業高校に就学する学生は実家が農家や酪農家であり、その後継ぎである。八軒のような普通の人はむしろ珍しい。これもまたある種のジレンマであったりする。親はできればきつい農家を継いでほしくないとも思ってたりするし、逆に農家以外の家庭は農業に就こうとするする人は少ない。
最終巻で脱奴隷と卒業生が喜んでいる姿はギャグとして笑えるが、現実的には笑えない(でも君たちはきっともっと過酷な奴隷生活が待っているかもししれない)。ちなみに私も大学院を卒業して一般企業に就職したとき、土日が休みであるという、当たり前の事実に若干びびった。ある意味で日本で最も過酷な奴隷は大学院生かもしれない。
個人的にはアスラーン戦記よりもこっちを続けて欲しいとも思うが、高校できっちり終わらせたことも英断かもしれない。