匿名性の高い仮想通貨の一つと言われ、コインチェックが取り扱いを中止すると報道されているDashについて2つの重大な誤解をこれまで目にしました。誤解をしているのが仮想通貨の規制について重大な役割を持つ団体と有識者であり、事実と異なる情報が広まっている恐れがあります。
これは、一般社団法人日本仮想通貨事業者協会(JCBA)が公開している『会員取扱い仮想通貨一覧並びに仮想通貨概要説明書』に記載されていた誤りです。
私が指摘をして先月5日に訂正されたという経緯があります。
DASHのブロックチェーンはすべて公開されています。オプションのプライバシー強化機能であるPrivateSendは取引履歴を難読化しているだけで非公開トランザクションではありません。
このようにすべてのトランザクションが公開されています。複数ユーザーの複数アドレス間で同じ金額の送金が複数回行なわれ、取引履歴が難読化されるという技術です。この技術はビットコインのプライバシー向上技術として定式化されたCoinJoinが元になっています。ビットコインやビットコインキャッシュにもこの技術を使ったミキシングサービスが存在します。
これは、『週刊ダイヤモンド』特別レポートの記事に掲載された麗澤大学経済学部教授の中島真志氏の発言から私が感じたことです。中島氏は金融庁が設置した「仮想通貨交換業等に関する研究会」のメンバーでもあります。
該当部分を引用します。
「ダッシュ」という仮想通貨を例に挙げると、3人がダッシュを売却した場合、3人分が売却した通貨を一つのプールに入れてゴチャ混ぜにして、別の3人に売り渡す、「コインミキシング」という手法を取っています。
DashのPrivateSendは売却時に行なわれるものではなく、取引所の外でしか行なえません。また、3人で同額のコインを交換するのであって、別の3人に渡すのではありません。
このような誤解が生じる背景には、取引所内でのオフチェーンの取引(exchange)とブロックチェーンに載るオンチェーンの取引(transaction)の混同があると思われます。
仮想通貨の匿名性の高低に関わらず、取引所内の取引は当然秘匿されることなくすべて取引所に記録されています。
取引所への入金と取引所からの出金は取引所にも記録されますし、ブロックチェーンにも記録されます。Dashの場合、取引所への入金と取引所からの出金はマスターノードを間に介さない通常の送金になります。これはビットコイン等と全く同じで、送受信者のアドレス・金額・承認日時が公開されているトランザクションです。また、取引所に入金を行なった者が事前にPrivateSendを使ったかどうか、取引所から出金を行なった者がその後PrivateSendを使ったかどうかも取引履歴を追跡することで判別することができます。
Dashは「匿名通貨」という定義のはっきりしない用語によってMonero、Zcashと一括りにされていますが、ブロックチェーンの透明性を重視している仮想通貨です。
仮想通貨を使ったマネーロンダリング・テロ資金供与を防ぐには一にも二にも本人確認が重要です。本人確認が厳格なものであれば、「仮想通貨の売買」、「日本円の入出金」、「仮想通貨の入出金」をどこの誰が行なったのか特定できます。取引所から出金された仮想通貨を追跡して犯罪使用を防ぐという方法は現状のビットコインでも難しいはずですし、今後さらに難しくなると考えられます。