「男性向け」を意識して書いた作品です。
ただ私は男性向け・女性向けを厳密に分けていません。自分が表現したいシチュエーションを書いているだけなんですが。
■あらすじ
製薬会社に勤める高橋堅は、最近妻・麻花奈(まかな)の様子が奇妙なことに気づく。ある日アタッシュケースを抱えて帰ってきた彼女を不審に思い、問い質すが本人も全く見に覚えがないと言う。
混乱する堅はアタッシュケースの身元を調査する。とある実業家に行き着いた堅が直撃すると、「セフレ契約を結んだ」というが彼女の奇妙な点はそれだけでは解決しなかった。
妻の淫らな別の姿に困惑しつつも、その美しさに魅入ってしまう。次第に他の男に抱かれる妻に情欲を覚えてしまうのだった。
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※物語は全てフィクションです。
最近妻の様子がおかしい。お金や低俗な話題に執着するようになった。これまでの妻は正義感が強く、看護師という職業に誇りを持って真面目に仕事をしている強気な女性という印象だった。他人の不確かな噂なんかの低俗な話題などまるで興味がなかった。言葉遣いも明らかに粗暴になり、人を見下すような発言が多くなった。僕が務める製薬会社の営業で訪れた病院で出逢った彼女はまさに〝白衣の天使〟という、時代錯誤だがそういった表現がピッタリの人だった。違和感を感じたのは二週間ほど前からだったが、僕も収入に決して余裕があるわけではなくプライベートの時間を仕事に割かなければならなかった。
* *
ある日、彼女はアタッシュケースを抱えて帰宅した。
「な!? 一体どうしたんだよ、それ」
「え? いいじゃん別に。アンタになんか関係ないわよ。もう疲れたから寝るわ」
僕の慌てふためいた様子なんかおかまいなしといった様子で、パジャマに着替えるやいなやベッドに入り眠ってしまった。アタッシュケースはリビングテーブルに置きっ放しだ。僕は恐る恐る中身を確認しようとケースに手にかけた。鍵はかかっていないようであっさりとケースは開いた。そこにはびっしりと札束が詰まっていたのだ。見たところ全て帯封《おびふう》がされているようだ。
「……!!」
僕は呆然とした。あまりに非現実的な光景が目の前に拡がっているからだ。一つの束を手にとってパラパラとめくってみた。どれも本物の一万円札のようだ。このケースの大きさ……恐らく一億円ほどの紙幣が入っているのだと思われる。
――何故、こんな大金を……しかも現金で。
頭の血の気が引いていくのを感じ、少しふらついた。彼女・麻花奈《まかな》は僕の妻なわけだし、こんな大金が僕に関係ないということはない。僕自身が知らないままなのであればそう言えるのかもしれないが、目の前に置かれている以上説明してもらわねばならない。
* *
翌日の朝、彼女が起きてくるのを待った。
「おはよう。今日は早いのね。私より早く起きているなんて」
眠い目を擦りながら彼女はいつもの口調で言った。今日は普段の彼女に戻っているように見える。
「おはよう。どうしても仕事前に聞きたいことがあってさ。少しだけでいいから時間くれないか?」
「いいけど?」
彼女は昨日のことなどさっぱり忘れているような素振りだ。
「昨日アタッシュケース持って帰ってきたでしょ? リビングに置きっ放しにしてさ」
「え? そんなことあった? つか何でアタッシュケース? そんなもの持って帰ってくる用事ないけど」
「でも実際ここにあるよ。中には一億円入ってる」
僕はそう言ってアタッシュケースを彼女の眼の前に置いてみせた。
「えぇ? 本当に私が持って帰ってきたの? 全然記憶にないんだけど……」
怪訝な顔をして僕とアタッシュケースを交互に見ている。
「おかしいな。確かに麻花奈が持って帰ってきて、僕聞いたんだよ。それどうしたの? って。そしたら〝あんたになんか関係ない〟って言ってすぐ寝ちゃったんだ」
「はぁ?」
彼女は酷く困惑していた。本当に何のことだか訳が分からないという表情だ。嘘を吐いている態度には見えない。
「昨日お酒飲んだの?」
「いえ……そんな暇ないわよ。いつも通り帰ってきたと思ったけど」
「仕事してたんだよね?」
「えぇ」
彼女の仕事は夜遅くになることが多い。予定より遅く帰ってきても残業と言われてしまえば、僕はそれ以上踏み込めない。
「にしたって大金だよこれ。新札のようだから調べればもしかしたら身元は割れるかもしれないけど、調べていいよね?」
「それは構わないけど……」
「分かった」
僕はそれ以上何も言わなかった。あれこれ問いただすには時間がなさ過ぎた。彼女には調べるといったがいつどんな風に調べるのかということは明かさなかった。何かしらの犯罪に加担しているか巻き込まれている可能性もあるからだ。疑いたくはないけれど浮気の可能性もあるかもしれない。こんな大金を用意できる人間は富裕層の男性しか思い浮かばなかったからだ。僕は出張と称して有給を取り、妻を尾行することにした。
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