ファンタジー要素のある官能小説です。私の作品の中では一番長いです。女性向けを意識して書きました。
本当はコピーガード機能があれば良かったですが、ないようなので第一話、無料部分のみの公開です。
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東の空に煌びやかに輝く星々の集まり、南北に走る天の川。その天の川の西側に一際異彩な白い光を放つベガという星があった。ベガには織姫という真面目で美しい姫が住んでいた。ある日、父親である天帝が彦星という青年と引き合わせた。二人はたちまち恋に落ち、結ばれたがお互い仕事を疎かにしてしまい、引き離されてしまった。それから数千年、彼らは年に一度だけ会うことを許されている。
しかし、彼らは年に一度だけの逢瀬に納得しているわけではなかったのだ。したたかに、とある計画を立てていた。
* *
七夕の夜 ―― 。
「いよいよ、この計画を実行する日が来ましたわ。カササギ、例のものは用意出来て? 」
織姫がカササギに尋ねる。カササギは織姫と彦星の間を行き来するメッセンジャーのような役割を担う鳥だ。
「えぇ、例の霊玉は用意してございます。 ですが織姫様。 本当に大丈夫なのでしょうか? 成功したという話は聞いたことがありませんが……」
「いいのよ。 失敗しても消えるだけ。 幾千とある星々のたった二つが消えてなくなるだけですわ。 私たちは確かに、二人だけの楽しい時間にかまけて仕事を怠りました。 いつか許してもらえると、年の一度の逢瀬だけで我慢してまいりましたわ。 でももう限界です。私たちは地上で人間となって転生し、お父様の支配から逃れて暮らしたいんですの……」
「仮に転生に成功したとしても、人間界には天上界以上に厳しいルールが存在します。 何不自由なく生きられる保証はございません。 最悪彦星様と逢えないまま、命を落とす可能性も……」
「分かっていますわ。 それも覚悟の上です。 人間界には唯一〝生まれ変わり〟システムが存在しますわ。 天上界にはありません」
「天上界の存在は永遠の命が与えられていますからね。 生まれ変わっても記憶は引き継げませんよ? リスクの方が大きいのではないかと感じます」
カササギの言葉は、自分を思ってのことだと織姫は重々承知していた。織姫はこれまでの数千年を振り返る。カササギには無理をたくさん言った。それでも決して文句を言わず、ただ二人に尽くしてきたのだ。
織姫は微笑む。しかしその微笑みはどこか寂しげだった。
「カササギ、心配してくれてありがとう。 あなたの気持ちは十分伝わったわ」
「……織姫様。 本当に行かれてしまわれるのですね……」
カササギは納得したわけではないが、せめて転生を成功させて天上から二人を見守っていたいと思った。
* *
織姫の目線の先、天の川の向こう側から淡い光が浮かび上がった。光は人の形を模していく―― 。
彦星は天の川を渡り、こちら側に向かって歩みを進めてきた。織姫が自分の存在に気付いたことを悟ったのか、大きく手を振っている。
「あぁ、彦星様!」
織姫は機織りの手をとめ、彦星の元へ駆け寄った。織姫の眼には涙が浮かぶ。この時をどれほど待ち侘びていたことか。
「やぁ、織姫。 元気にしていたかい?」
彦星は自身の胸へ飛び込んできた織姫を抱き締め、尋ねた。
「彦星様、逢いたかったですわ……。 あなたのことを一日たりとも忘れたことはありません」
「僕もだよ。 元気そうでよかった。 織姫、それはそうと、本当にあの計画を実行するつもりかい?」
彦星はカササギから織姫の計画を聞いていた。反対しているわけではなかったが、織姫がどのくらいの覚悟で臨むのかを知りたかった。
「えぇ。 覚悟は出来ておりますわ。カササギとも先程話していましたの」
「そうか、本気なんだね。 確かに僕もこのままでは駄目だと考えていたよ。 天帝様は許して下さる気配もないしね」
彦星は星空を見上げた。天帝様が許して下さるなら今のままでもよかった。しかし愛する織姫の覚悟を無下にするわけにもいかない。そこまでして自分と一緒になってくれると言うのなら、その気持ちに応えたかった。それが天帝を裏切ることになったとしても――。
「僕は転生しても、必ず君を見つけるよ。 どれだけの時間がかかっても、何度人生を繰り返しても必ず……」
彦星は織姫を一層強く抱き締め、囁いた。織姫は堪え切れず涙を流した。頬を伝った涙は光の粒子に変わり、宵闇に溶けていく。二人の姿を見たカササギも感極まり、翼の影で涙を流した。
「私も必ず貴方様を探し出しますわ……きっと再会出来ると信じています」
彦星は、織姫の涙を指でそっと拭き、頬にキスをした。
「泣いてばかりいられないよ、まずは計画をおさらいしよう」
二人はベガの住む宮殿へ向かい、星空が見渡せる吹き抜けの部屋にあるベッドに腰を下ろした。織姫が織った布に綿を詰め込んだ寝具は、ギシリと音を立てる度、細かい光が宙を舞う。舞った光は天に昇り、次々と星になった。
「さて。 計画はこうだね。 人間界の五臺山《ごだいさん》に住む龍から霊玉を二つもらう。 そして霊玉に願いを込め、僕たちが一つずつ飲み込む……」
「その後、最愛の交わりを行うのですわ。 二人の感情が高まれば高まる程、願いが叶えられる確率も上がる……」
「言い伝えによると、成功した者は一人もいないのだとか……てっきり神々の誰かが創作した作り話だと思っていたけれど」
「でも霊玉は存在しましたわ」
「そうだよね……」
「ただ、いつものように愛し合えば済む話ですのよ。 私はいつも彦星様との交わりの時間は至福を感じておりますのよ」
そう言って織姫は微笑んだ。
「君の逞しさには本当に感心するよ。 不安なのは僕だけなのかもね」
彦星は自身の不甲斐なさにやるせなくなった。織姫を見つけ出すとは言ったものの、それは自身の不安を覆い隠すための強がりだった。
「不安なのは私も同じですわ。 でも彦星様、貴方を信じていますの」
織姫の瞳は強い意志を宿していた。
――織姫……。
彦星は決意を固めた。
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