先日、親戚のAさんが孤独死をした。
場所は賃貸アパート。9日間発見されず、自宅に行った弟のBさんが発見した。
原因は不明だが、心臓麻痺か何かで動けず、そのまま亡くなった。
9日経っていたため、腐敗していた。
後日不動産会社からCさんに対し、100万円を支払えとの請求書がきた。
なにやら、賃貸借契約上、Cさんが保証人になっているからということであった。
一般に賃借人は、賃貸目的物を明け渡す際に、原状回復をしなければならない。
そして、賃貸借契約上、保証人になった人は、賃料その他原状回復について、賃借人と同等の責任を負う。
Bさんの腐敗による原状回復費用として100万円を請求されたのだ。
Cさんは馴染みの税理士に相談したところ、これは支払わなきゃどうしようもないとアドバイスを受け、泣く泣く支払う羽目になった。
姉が孤独死という形でなくなり、追い打ちで100万円という大金を支払う羽目になった。
というのが事の顛末である。
確かに、賃貸不動産で賃借人が自殺した場合に、保証人が原状回復請求及び損害賠償請求を受けるのは、良くある話である。
損害賠償というのは、人が亡くなった場所であるから、その分値下げして貸す必要があるため、損害が発生するというのである。
自殺の場合、自殺した本人は賃貸人に迷惑をかけることをわかってしたのであるから、保証人も責任を負わざる得ないのはそうであろう。
しかし、孤独死はどうだろうか。本人もわからない突然の死。
この話を親から聞いて、私はふと思った。
騙されてないか?
民法415条は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」は損害賠償責任を負うとし、但し、債務の不履行が債務者の責めに帰することができない場合は、責任を負わないと定めている。
民法621条は、原状回復について定めている。
要するに、通常の使用収益による損耗や、経年劣化以外は原状回復すべきという定めである。しかし、これも但書があり、損傷が賃借人の責めに帰することができない場合はこの限りでない。
責めに帰すべき事由がなければならないのだ。
ここでいう責めに帰すべき事由とは、債務の不履行に対する故意または過失である。賃借人は、物件に対し、善管注意義務を負っている。
自殺の場合は、物件が損傷するであろうことを認識しつつ自殺しており、責任は免れない。
孤独死は突然訪れる。物件が損傷することは、予見不可能なのである。損傷したくて損傷させたわけではない。不可抗力で亡くなり、たまたま発見が遅れたから損傷したのである。
そこには、損傷について賃借人の過失が認められる余地は少ない。
また、原状回復といっても、その清掃に100万円もかかるのだろうか。亡くなった部分、場所によっては腐敗は一部分に限定される。
何も知らないと踏んで多めに請求するケースはよくある。額が適正であるか、内訳は何か、利害関係のある不動産屋以外は誰も裏付けをとっていない。おそらく心理的瑕疵による損害も含めての請求である。
家賃の20倍もの損害賠償を突然保証人が負う。これがもっと高い物件ならどうなっていただろうか。
現行法では、個人でこのような保証をする場合、極度額といい、保証額の限度を定めなければならないことになっている(令和2年改正法以前は、定める必要がない)。
今後このような方が増えてくると思われるので、念のため警鐘をならしておきます。