本書ではAIと人間が協働する世界について、それぞれの業務領域においての実例とこれからの予測を踏まえて解説されている。AIは人の仕事を奪うのではなく人が人らしく働くことを支援するものであるという立場で書かれた書籍だ。また人口減少社会に突入した日本における労働生産性を維持するための打ち手としていくつかの解決策を提供してくれるかもしれない。
また、本書内のパート2ではミッシングミドルという概念を中心に、現在の社会や仕事に対して具体的にAIを導入するために考えるべき6つのステップが紹介されている。AIを実社会に融合させるために求められる概念と人の役割について理解するのに役立つだろう。
AI時代に人間に求められる役割とは何なのだろうか。この問いに対して、AIと人間は協働することで、人は人らしく働くことができるようになり、さらにはスキルを拡張することができると説くのが本書の序章である。
主に製造、サプライチェーン、会計、R&D、営業、マーケティングの6つの領域においてAIがどのように活用され、そこで起こり始めている変化について事例を元に解説がなされている。
過去から現在にかけて主流となってきたのは、プログラムした通りに動くロボットやソフトウェアの自動化に活用されるRPA(ロボティクスプロセスオートメーション)などの技術であった。それに対してAIを活用するこれからの世界では自ら学習し、人のサポートを行うことが当たり前になってくる。
ここでのポイントとしては、人の仕事をAIが奪うのではなく「人間がより人間らしく働ける」ように支援するということである。その変革プロセスの中で部分的に(会計業務や請求処理、スケジュール調整など)人よりもAIが得意とする分野においては、人の仕事を機械が代替することもあるのかもしれない。
ミッシングミドルとは、AIと人間が協働する中で生まれる新しい領域であり、いままで議論されてこなかった領域のことを示している。
AI時代におけるアルゴリズムの設計には、訓練者/説明者/維持者という対AIにおける3つの新しい概念が登場する。この役割はそれぞれAI時代に新たに発生する概念となるのかもしれない。
またAIの導入には、既存の業務プロセスの再定義が必要になる。そのプロセスについても第7章で詳細に説明がなされている。
最終章では「人間+マシンの時代を生き残るために」と題してこれからのキャリアとこの時代の戦い方が紹介されている。今こそ既存ビジネスを再考し、再構築するときであり、人とマシンが共にビジネスを進めるエキサイティングな社会を歓迎しよう。というメッセージと共に締めくくられる。
本書を読み進める中で改めて自社の業務プロセスについて思いを巡らせるように意識をしてみよう。その中でどの業界に属する人もそれぞれの既存領域には、AIを活用可能な領域があることに気付かされるだろう。
本書を通じて気付かされるのは、すでにAI時代は始まっているということである。またその活用方法を真剣に考える時はすぐそこまで来ているということなのかもしれない。前向きに人間の仕事をAIが奪う世界になる前に本書を通じて考察を深め、具体的なアクションプランに落とし込む必要があると感じる。
少子高齢化や労働力不足先進国の日本において、その逆境を逆手に取り、世界に先駆けて人間とマシンが共存する世界を構築すべきであるとの強い思いが私たちにはある。(アクセンチュア アプライド・インテリジェンス日本統括 マネージングディレクター 保科 学世氏)