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ギリシア哲学における超越性原理の萌芽

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  • あび(abhisheka)
  • 2019/03/22 12:13

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・ギリシア哲学における超越性原理の萌芽

人類史の中、超越性宗教の萌芽ともいうべき思想を開陳する先駆的な哲学者は世界の各地に現れた。
ここではギリシア哲学の例を概観しよう。
ミレトス学派の自然哲学は、通俗的には、神話から自然科学への過渡期であると説明されることが多い。だが、それは「近代科学主義」で世界を席巻した欧米によって、その科学の源はヨーロッパのギリシアにあるとしておこうとする偏った見解かもしれない。
だが、私は思うのだが、自然科学というものに量子力学なども含めた一種哲学的な存在論まで含めて考える時、「科学という名の下の超越性宗教」の始原はギリシア哲学にあるというのは、ある意味で正鵠を得ていると言うべきではなかろうか。
いずれにしろ、彼らは万物の根源(アルケー)の探求を神話的偶像的なものから解放し、存在とは何かという哲学的思考を開始したことは確かである。
 以下、地域や時代、学派についてはやや横断的になるが、ギリシア哲学における超越性原理の探求という視点から、彼らの探求や言及を整理してみたい。
タレスは万物の根源は「水」だと考えた。これは一見、幼稚な考えのように見える。しかし、象徴的な次元で考える時、彼が「水」と言ったのは、現在でいう「エネルギー」ということができる。存在は変幻自在なエネルギーから成り立つとしたのである。
ヘラクレイトスは万物の根源を「火」であると考えた。焚き火を見つめているとき、一瞬一瞬、千変万化する炎の性質は、水よりもさらにエネルギーのダンスを彷彿とさせる。現在の科学哲学でも、瞑想や臨死などによる神秘体験でも、万物の本質を「光」とすることがある。そこには、アインシュタインが、エネルギーは質量×光速の二乗であるという式を打ち立てたのと同じ発想があると言えないこともない。
その後の様々な超越性宗教でも、「水」は、ヨハネによる洗礼(ユダヤ・キリスト教系)や、灌頂(仏教・密教系)の際のエネルギー伝授の象徴として用いられ続けた。
また「火」もイエスによる洗礼(キリスト教)や、クンダリニー伝授の秘儀(ヒンドゥー・ヨーガ系)において、エネルギーの性質を喩えるものであり続けた。
万物の根源(アルケー)が「水」であるという表明も「火」であるという表明も、具象物に託しながらも「存在はエネルギーのダンスである」という思想なのではないかと言っておきたい。
水の洗礼を行っていたヨハネは言った。
「わたしよりも優れた方が、後から来られる。わたしは、かがんでその方の履物のひもを解く値打ちもない。わたしは水であなたたちにバプテスマを授けたが、その方は聖霊でバプテスマをお授けになる。」(マルコ1・7~8)
聖霊は、聖書において「炎のような舌」「火」に喩えられる。火の性質を持った聖霊によって古い自分を焼き尽くし、新しい自分に生まれ変わることを「聖霊による洗礼」と呼んだのである。
後の章で詳細に検討するクンダリニーによるシャクティパットなどにも通底するエネルギー現象について、世界各地の人類は古代から知っていたと考え得る。
ヘラクレイトスの言葉としては「万物は流転する」という宣言も有名である。例証として彼は「人は同じ川に二度と足を踏み入れることはできない」と言ったともされる。あなたの知っているいずれかの川を思い起こしてほしい。その川の名前はあなたが子どもの頃も今も同じかもしれない。だが、そこに流れる水は一瞬一瞬変化していて、同じではない。
川の例は少し思いを巡らせばわかるが、実はすべての存在は一瞬も止まらず変化しており、二度と同じ瞬間はない。「無常」という仏教の旗印も同じことを言い表している。
だが、東洋人の私の目から見ると、ヘラクレイトスには西欧的な限界の刻印がある。「人は同じ川に二度と足を踏みいれることはできない」と言うとき、「人」という主体(主語)の側の変化が見落とされているのだ。「人」もまた「川」と同じく一瞬一瞬変化している暴流のごとき存在である。
その点ではたとえば日本文学の中で鴨長明の有名な『方丈記』の冒頭を読むだけで、彼我の違いは鮮明であろう。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」
主語さえ消えてしまったかのような(後に日本語文法が後付けで考案され、第一文の主語は、「流れる」という動詞の連用中止法としての「流れ」であるということになるが)「場」にプロセスのみが展開し続ける。存在の実相としての無常が剥き出しになっている。
アナクシマンドロスはもっと端的に、万物の根源は観察不可能で限定できないもの=アベイロンと名付けた。伝統的な四大元素(地水火風)は、現実的に此岸の世界に存在する具体物である。そのどれをも、たとえシンボルとしても、アルケーの位置に持って来なかったのである。それらの「奥に」それらとは別に「超越性的根源」があると考えたのである。抽象化された理念としての超越性原理を哲学したという点でさらに一歩進んだとも言える。あるいは、シンボリックで詩的な表現からは遠ざかってしまったと言えなくもない。だが万物の根源としての「エネルギー」という概念を抽象的に打ち出した嚆矢とも言える。
 ところがそれを受けたはずのアナクシメネスは、万物の根源は「プネウマ」(空気、気息)であるとした。プネウマを空気と訳すと再び具象物をアルケーと定義したと見なすことになる。気息という訳は秀逸である。生命エネルギー、中国でいう気という側面を持つからである。アナクシメネスの考えでは、プネウマは濃縮に従ってあらゆる要素に変化しうる。最も薄くなると熱くなって火となり、濃くなるにつれて冷たくなって水になる。更に濃くなると地になる。アナクシマンドロスのアベイロンから見ると、具象への後退と見ることもできなくはないが、絶妙のバランスで超越性と存在性の原理を表現しようと考えることも可能である。
 プネウマは後にキリスト教では聖霊の意味で用いられるようになる。また、現在の英語のスピリットの原語である。
 彼らのようなアルケーの探求とはやや角度が異なるが、ピュタゴラスは世界を数学原理で成立していると考えた。

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10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka

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