アルティメット紅白大運動会が僕に思い出させたものは、1980年代後半ころ(今もある?)、日本で流行していた自己啓発セミナーにおける「赤黒ゲーム」である。
のちに死体にシャクティパットをしていた事件で逮捕される高橋弘二が主宰していたライフスペースというセミナー会社のセミナーのベーシックコース(4日間)でも、このゲームはひとつの要になっていた。
この「赤黒ゲーム」は種明かしを先に知ると参加者が効果を得られないので口外しないことというルールがあった。
僕はライターなのに、なんとそのルールを守っていた。というのも、高橋弘二については今いちと思っていたものの、ライフスペースを通じて知ったインドのグル、スワミ・チッドヴィラサーナンダなどとの出会いなどを通じて、僕は大きな恩恵を受けていたので、一応、ライフスペースに仁義?を尽くしていた?のだ。
しかし、二澤雅喜という人が「洗脳体験」という本でこのゲームの詳細を暴露した。
その後オウム真理教事件などもあり、「洗脳」についてや、そのビジネスへの応用について人々の意識が「一時的に」高まり、情報が出回ることになった。
今では、ネット検索で簡単にこのゲームの詳細を知ることができ、僕が話す、話さないの次元はとうに昔のことになった。
では、「赤黒ゲーム」について、実際の僕の経験をまじえながら、振り返ってみよう。
赤黒ゲーム
自己啓発セミナーの参加者が2つのチームになり、それぞれ別々の部屋に分かれる。
そして、それぞれのチームで「赤」を出すのか「黒」を出すのかを話し合う。
自分のチームが出した色と、相手チームが出した色の組み合わせによって、獲得できる点数が異なる。
獲得点数に関するルール
(1)両チームが「黒」を出した場合はそれぞれのチームに5点ずつ加点される。
(2)両チームが「赤」を出した場合はそれぞれのチームから3点ずつ減点される。
(3)ひとつが「赤」、ひとつが「黒」を出した場合は、
「赤」のチームが5点の加点、「黒」のチームが5点の減点となる。
このルールのもと数回戦が行われるのだが、さて、赤を出すか黒を出すかが、各部屋で話し合われる。
僕は大学時代に同棲していた元恋人に勧誘され、このセミナーに参加した。(彼女は修了しているので来てない。)
そのとき、僕はまだ20代の若者だったが、50人が受講しているセミナーの中で、発言や行動が派手で目立っていたため(インドやアメリカでグループセラピーセッションなどは既に百戦錬磨だったので、普通の会社員や主婦などが受講している中では、初めから場慣れしていた)片方の部屋のリーダーに選ばれた。
片方の部屋で何色を出すかの話し合いの司会をしたのである。
話し合いで、「赤」と「黒」を出すか決めようとする際、
最初は、黒を出したときに相手が赤を出したら負けるということに多くの人が着目する。
(1)赤を出しておけば、相手が黒なら、こっちは5点加点され、相手は5点減点されて、一気に10点リードできる。
(2)こっちが赤を出せば、相手も赤だったときは、互いに3点減点されるが、互いの同時減点なので、相手に差をつけられて負けがこむ要素にはならない。
(3)こっちが黒を出したとき、向こうも黒なら、互いに5点加点される。
(4)が、こっちが黒を出したとき、もしも相手が赤ならこっちは5点減点され、向こうは5点加点されて一気に10点の差をつけられ、リードされてしまう。
僕が体験した成り行き
そのため各部屋での一回戦の話し合いの結果、「赤を出しておけば、相手がおバカで黒を出せば勝てるぞ」という結論に達することがほとんどだ。
果たして代表が赤色の札を持っていくと、相手も赤色の札を持ってきている。
互いに3点減点されて、一回戦が終わる。
その結果をもって帰って、二回戦はどちらの色を出すか、話し合う。
一回目よりはやや多様な意見が出るが、結局、どう考えても、こっちから黒を出すのは、おバカに過ぎるという結論になり、また赤をもっていく。
相手もそうしてくる。
また3点ずつの減点だ。
何回戦も行ううちに、互いに「赤」を出し続けていれば、結局互いに減点されていくだけだという事実により強く着目する意見が増えてくる。
僕も司会席から、「黒を出そう」と主張しはじめた。
「たぶん宇宙の法則ですべてが鏡になっている。だからこっちが黒を出すと決めた瞬間に向こうも黒を出すと決めてくる。そしたら、両方に5点が加点される」
「でも、もし赤を出してきたら?」
「そうだ、そうだ、負けるよ」
意見は回戦を追うごとに拮抗してくるが、結局、多数決では赤に決まる。
そして相手も赤を出してくる。
少なくとも、僕が参加した際には、そのまま、最後まで赤と赤で減点が続き、ゲームは終了した。
ふたつの組に分かれていたチームはひとつの部屋に集まり、真っ赤に血塗られた点数表が前に貼ってあるのを見る。
その前でセミナーのトレーナーが、泣きながら、その結果の悲しさを語る。
この泣きの語りがめちゃうまくないと、トレーナーにはなれないなあ。
たぶん、95パーセント以上は本気で言っていると思う。
聞いている皆も泣き出すからなあ。
「宇宙は鏡になっているんです!」という僕の台詞も、悲しい意見のひとつとしてトレーナーは取り上げた。(ちょうどそのとき、こっちの部屋を見に来て僕がそう叫ぶのを見ていたのだ。)
僕はそれを言ったときの自分の心の根っこを顧みて、なぜか号泣してしまった。
これは言説としてはほとんどゲームの原理を言い当てているのだが、
しかし、僕はそれを言っているとき、宇宙にサレンダーしていたわけではなく、
「わかったぞ、こうだ!」という上から目線だったからだろうか?
とにかく、僕はそう言った瞬間の自分が悲しいと思って、号泣してしまった。
ちなみに、セミナーが始まってから、それまでめちゃ目立った動きを続けていた僕には、フアンもアンチもいるなあと感じていた。
その僕がさっきの司会としての自分の台詞に号泣しているときだった。
僕の隣に座っていた、どちらかというと、この人は僕のアンチだと感じていた女性が、椅子の上から手を伸ばしてきて、僕の手を握った。(名前、忘れたなあ。(-_-;)
そして「長澤さん」と言うと、ぎゅっと握った手に力をこめて、一緒に号泣し始めた。
僕はその女性が手を握って一緒に号泣してくれるというシチュエーションで、ますます号泣してしまった。
純粋だったなあ、、、、
ここで三日目のセミナーが終わるというのもひとつのミソだ。
最後の四日目に向けて、一晩自分で考えるのだ。 (つづく)
つづき
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