猫にテレパシーがあると確信したのは、大学院生のときです。
はっきり恋人というわけではなかったけどマンションの合鍵を僕に持たせていた女の子がいた。ある日その子が猫を飼いたいと言ったので、一緒に子猫を買いにいった。
僕は彼女がラウンジのバイトをしている間、彼女の部屋でよく子猫とふたりで過ごし、彼女の膨大な蔵書を読んでいた。
ある夜、僕は彼女のノートを見てしまい、そこにはラウンジのお客さんのある人のことが好きだということが縷々綴られていた。
僕は、ああ、これでここに来るのは最後だと思った。鍵は外から閉めてから、郵便受けからもう一度中にほうりこめばいいと思った。
そのときだ。
遊んでやらない限り自分からは寄ってこない猫が机に飛び乗り、僕の手の甲に顎を乗せてみゃああと鳴いたのだ。
そのときのバイブレーション、僕と猫の寄り添う一体感は特別のものだった。
でも実は人間どうしでも言語脳に阻まれているだけで、本当は常にこの以心伝心の世界は存在するものかもしれない。