2016年の日記です。
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹著 読了
村上春樹はデビュー作「風の歌を聴け」と、最初の短編集「中国行きのスロウボート」には感涙した。
しかし、その後も「ノルウェイの森」までは読み続けたのは惰性であった。
あとの作品も読んでいないことはないが、胸の奥まで届いたことは殆どない。
彼の作品はマニアのための迷宮となり、シンプルで根源的な人生観はむしろ喪われたように僕には思われた。
しかし、この小説はよかった。
上記、初期の二作に匹敵すると思う。
なぜならそこには生老病死の音楽が、哀しみとともに構造的に表現されているからだ。
まるで谷川俊太郎の詩のように。
しかし、もちろん小説として構築してあるので、それよりはやや構造的だ。
僕が村上春樹の小説を褒めるのは、まだ三度目である。
あるいは青春期にはシンクロしていた彼の感性と、僕の感性が、
その後シンクロしなくなり、
晩年に近づいてまたシンクロしたということかもしれない。
この作品は、青年期にしまいこんだままの心の蓋をとって、もう一度その中を覗き、自分の人生の意味を照らし直すという構成をとっているのだから、
その再びのシンクロも、あるいは自然なことなのかもしれない。