使い魔も増えたことだ、そうだ、この際使い魔同士で模擬戦でもやらせてみるか?
となると、戦況予想がどれくらいできるか試す必要があるな。
俺は、館の研究室で思案を巡らせていたところに青いゴスロリ風のドレスを着た美少女がコーヒーを持って来てくれた。
「ところで、ソローン。明日はセーレとアンドロマリウスで模擬戦をやらせようと思うがどっちが勝つと思う?」
「模擬戦闘において何か条件がございますか、マスター?」
「いや、相手を消滅させないで終わらせる位の縛りしかないが」
ソローンは、俺の隣でココアを息で冷まさせながら、しばらくカップの湯気を見つめていたが答えが見つかったのだろう。
「マスター、たぶん模擬戦ではアンが勝つと思います。セーレには、驕りがありますから。それに、アンの方が私の使い魔になってからの経験が長いですから。きっとアンが勝ちます!」
「ふっ、そうか。それは楽しみだな。魔人の序列七二位が上位の七十位に勝つか。だがこの間の高速の動きは中々の物だったがなあ」
「ネコ、模擬戦の予想はどうだ?」
音もなくシャム猫が現れると俺の膝に飛び乗った。
「マスタ、九八パーセントの確率でセーレが勝つと予想します。やはりセーレの空間移動及び攻撃力にアンドロマリウスでは対応不可能と思われます」
「そうか、ソローンの予想とかなり違うようだな」
「ソローンの戦闘予想は、たぶん気分的なものでしょう。あまり科学的な検証が成されているというよりも、より自分に馴染んでいる者を贔屓しているだけでしょう。ふん」
シャム猫は、赤い瞳をソローンに向けるとつまらない物を見るように小さく鳴いた。
「では、ソローン。明日は模擬戦を行うから、今日はもう休め。二体の使い魔を同時に使役するのは、初めての者には結構堪えるからな。鋭気を養っておけ」
「はい、マスター。では、お休みなさい」
ソローンが、保育器《インキュベータ》の中に入ると青く輝く液体がカプセルを一杯に満たしていった。
翌日、クロワッサンと蝙蝠のソテーで軽く朝食を済ませると館の裏庭にソローンと赴いた。
「では、始めるがよい。裏庭全体に結界を張ってあるから、極大魔道を使用しても大丈夫なので本気でやらせろ」
「わかりました、マスタ。古の血の契約により我の元へ来たらん、魔界のプリンス、セーレ!」
ピンクの煙が立ち昇ると、煙が消えると、翼を持った白馬に跨る騎士の装束に身を固めた、小太りの禿げた親父が現れた。
「くっ、昨日といい、身体が妙に重たい。もう、吾輩はこんなんばっかりだ。前もお偉いさんにお前しかいないからと言われて汚れ役をやらされたけど、その次も別の上司にお前だけだから、今この大役をこなせるのは。とか、言っといて結局、手柄は自分に持って行って吾輩には王への昇進の音沙汰なしだしさ。やってられないよ。
今日は、こんな人造人間に模擬戦やらされるとか。ぶつ、ぶつ ・・・・・・」
延々と愚痴を零す見た目、四十代の小太り親父、正体は地獄の魔人序列七十位の魔界のプリンス。
「もう、うるさい。という訳だから、呪文省略、アン出てきて、そこの小太りのオッサンをやってしまいなさい!」
白いドレスを着た美人が、セーレの後ろに現れると、右腕の大蛇を鞭のように振りかぶって三度攻撃し、全て太鼓腹に命中した。
「やぁ!相変わらず、扱い酷いです。えいっ!ご主人様、仰せのとおり。やぁ!」
「おおい、いきなり奇襲とか。やめてくれよ。そう言えば昔、酷い奴がいてこっちが気を遣って、戦うにも準備が要るだろうから待ってやっていたら。いきなり裏切って速攻攻撃してくるんだから。
もう、あいつは信用しない。て、痛て、待てよこらっ!」
太鼓腹の魔人は、アンの大蛇攻撃により哀れ落馬した。大蛇にでっぷり太った腹を締め付けられ苦しそうに、ぶつぶつ昔の愚痴を零していた。
「くそ、うわっ。止めろよ、吾輩の愛馬に何してくれるんだよ!」
アンドロマリウスは、空中から左手に宝剣を現出させると、次々と投げつけ、馬の翼を地面に縫い留めていく。
「くそー!もう、頭に来た。もう、謝ったって許さねえからな!」
「うぉーりゃ!」