(手伝ってくれるかい?
出来るだけ騒ぎにしたくないんだ。いいね)
あ、ああん。
うっ。
ビシッ。い、痛い!
くぐもった声と湿った空気の気配から、そこが何となく地下施設だろうと思われる。
「だから、何度も言ってるでしょう。その肩の上に付いてるのは飾りなの。私が米国《ステイツ》を売る訳が無いじゃないの!」
ビリッ、や、止めなさい。や、止めてよ。
「もう、只じゃ置かないわ。痛い。うっ」
何時までも、虚勢を張り続けることは出来なかった。独り不気味な部屋に閉じ込められて複数の男たちに何度も、何度も問い詰められ。妙な薬さえ使われて、だが知らないことは答えようがない。だから、拷問は際限なく続き、終わりが見えない。
「も、もう許して。お願い、家に帰らせてよ」
「さあ、早く素直になって白状するんだ。あれをどこの誰に売り付けたんだ?異世界に渡った日本人なんて、たわ言じゃなくて本当のことを吐け」
サングラスに好色な瞳を隠した男が、必要も無いのに美女の胸や尻を鞭の柄でいやらしく撫で回す。
きゃあっ。いや!
「そ、そんな所触らないでよ!」
ああ。
「ら、乱暴にしないで」
「生憎、国家反逆罪を侵したお前に人権はない。優しくされたかったら早く、白状するんだな。あれだけの量の核物質をどこの誰に売ったんだ!」
「い、痛いってば。止めて、お願い。さっきから、何度も言ってるでしょ」
「強情な女だな、それともこういうのが趣味で誘っているのか、ええ?それが望みなら、いくらでも相手してやるぜ」
うう、いやあ。
「あん、だ、だから竜に売ったのよ。でも、決して国を裏切ったりなんかしていないわ。だって、竜は向こうの世界に居るのよ。竜の手に渡った核物質は平和目的で使用されるし、万が一武器として使われたとしてもこの国、この世界とは何ら関りのないことよ!」
「さーて、もう一度最初から話して貰おうか。気が変わるかもしれないしな。だが気を付けろよ、あんまり同じ答えだとお前の胸も尻も血まみれになってしまうかも知れないぞ」 い、痛い!いやぁ。
『た、助けて』
うっ。
うん?また、夢の中で声を聞いたような?いや、夢じゃない。頭の中に助けを求める声が響いたんだ。
あ、メールがまた届いている。メールアドレスは、やはりスカーレットのものだった。なりすましも考えられるので、本人に確認を取ろうとしたがスカーレットと連絡が付かない状態だ。
これは、スカーレットに何かあったのか?
『・・・・・・ ムガット』
「ムガットお前も、何かあると言うんだな」
「ネコさん、ネコ来てくれ!」
「なーに、竜さん」
「ご主人、何事にゃ。頭の中に話しかけるのは止めて欲しいにゃ、くすぐったいけど掻けないなんて虐めと同じにゃ。ペット虐待にゃ!」
「大袈裟な奴め。どうやら、地球のスカーレットに何事か起こっているようだ。月からじゃ距離があり過ぎる、すぐに帰還する必要がある」
「竜さん、そこまでスカーレットの為にしてやる必要があるの?冷たいようだけど折角来た月なのに、もう帰るの?」
「ああ、ネコさんには申し訳ないが。少量の月の石がお土産になっちまうが、我慢してくれ。スカーレットには、世話になったしな。それに、二度と月に来られないって訳じゃないからな」
「そういう、ことなら出発準備を始めるにゃ」
「ああ。頼んだぞ、ネコ」
「俺は、姉さん、キリュウに挨拶してくる」
(ふぅ、義理堅いのも考え物ね。まあ、竜さんらしいけど。まあ、私としてはここに|経路《パス》が繋がったことだし、再訪に支障なしだから構わないけどね)
白衣を纏った美女の紅い瞳が妖しく輝くのに気付く者はいない。