「そういう訳で、これから帰るよ。姉さん」
「な、何がそんな訳よ。そんなんで、我が帰すとでも思うたか?」
「お客様、おもてなしに何かご不満でも?」
姉さんは、平常運転だな。召使いのアラク・アウカマリは皮肉めいた笑いを浮かべたからかいモードか、まあそんなもんだよな。
「いや、食事も美味いし部屋も快適だったよ」
「でしたら?お夜伽にうかがいました時に不手際でも・・・」
姉さんの眼が冷たく細められた。
「おい、有りもしない浮気とか捏造するなよ。趣味が悪いぞ」
「はあ、つれないことを」
「まあ、そのような不埒なことは我の眼が黒いうちは無いと知れ。それをこれほどまでに何を狼狽えよるか?」
ふう。俺は、ビシっと宣言した。
「本題に戻るが、向こうの地球で俺に協力してくれてる人がどうやら危機を迎えてるようなんだ。折角訪れた月だが、また近いうちに来るよ。今回の飛行でコツが掴めたからそれほど苦労せずに、またいつか逢えると思うから心配するな」
「我が主と違って心配など致しませんが、戻って来られなければ私の勝ということで、特に一ミリも問題ないと一応言っておきます」
「待っておるぞ、愛しの我が君」
「ああ」
「各部最終チェック開始」
「操縦系、異常なしにゃ」
「索敵、問題なしね」
「動力一? いつもいつも人使いが荒いよなあ。動力二? 劣悪な労働環境だけど一応やりますよ、貧乏くじの人生でさ」
「・・・」
ネコ、アンドロマリウス、一号《ワーヒド》セーレ、二号《イスナーニ》セーレが順に応答を返す、アスタロトは返事も無くネコを見つめたままだ。ビスクドールであるアスタロトに割り当て部署はないから影響はない。まあ、これ自体に別に意味は無いが様式美と言う奴だな。
『・・・・・・ ムガット』
おっと、普段から姿を隠している関係上忘れていたが使い魔であるムガットも俺の右肩の上で準備万端らしい。よし、それじゃあサクッと帰りますか。
「ほんじゃ、ネコ船長発進だ」
「了解にゃ、発進にゃ!」
「ネコさん、間もなく地球に着くから。また相談に乗ってくれ」
「ふふ、お土産しだいかしら」
帰路については、特に言及するほどのことは無かった。まあ、ムガットの補助のおかげで魔導の力を往路よりも効率良くセーレたちに分け与えたので速度が向上し、なんと一日で地球に戻って来れたというくらいだ。
これには正直助かった、退屈な長旅の苦労を味あわずに済んで良かったと思う。
それと、ばか高い山を衝撃波で少し削ってしまったがどうせ登場してこない強い魔物の巣が崩壊し、住処を失い怒りに燃えた魔物の攻撃で麓の町が消滅したくらいだ。
いろいろとやるべきことがあるが、とりあえず、スカーレットの無事を確認しなくちゃだな。さて、どうするか?