ホムンクルスは束の間の二人の逢瀬が終わりを告げたのを認めると、己が胴体《ボディ》を大事そうに抱きしめた。
すると虹色の光がホムンクルスのちょうど胸の中心、つまり心臓のある位置から零れだしやがてキールはあまりの眩しさに見つめ続けることができなくなった。
『すまんな、人間であるお前には少し眩し過ぎたか。もう、目を開けてもよいぞ』
キールが目をゆっくり開くと、そこには不思議な光沢のあるドレスを纏ったホムンクルスが居た。そのドレスは水が流れるようで、見ていると意識が吸い込まれてしまう錯覚を覚えてしまうほどの素晴らしい出来だった。
「き、綺麗だ」
『そうだな、あのワフードという者・・・・・・
なかなか侮れぬようだ、ふふっ』
(マスターに頂いたドレスをこうも見事に再現するとは、これはお礼しなくてはいけないわね)
「ふうっ。残ったお宝も回収したし、帰るとするか」
『くっ、・・・・・・』
(うっ、股間に違和感があったが胴体を回収し疑似胴体がドレスに変化した時の名残と錯覚しておったが。
あの愚か者は何処に入れているのだ。どこまで我を貶め、嬲るつもりか。我がマスターから贈られた物までも。ええい、許さぬ、許さぬぞ)
宝物庫の扉まで来てからついて来る気配が無いのを訝しんで、キールが振り返った。
「おい、どうしたんだ。もう、ここには用は無いんだろ?」
『そ、そうだな』
ホムンクルスが慌てて右耳に着けた不思議な色のピアスが少し濡れたような輝きを放つの見て思わず呟きが漏れた。
「おお、その綺麗な服も見事だがそのピアスも不思議な色でお前に似合っているな」 『おお、そうか。これは「七ニ柱《しんちゅう》の壺」といって大事な物なのだが奪われてしまっていたのをさっき見つけたのだ。
これには、マスターの力が込められていて我が支配下に置いた魔人どもを魔力の消費を抑え簡易に召喚できる優れ物だ。
褒めてもおまえにはやらぬぞ』
「まあ、それだけ大事なら俺はいいよ。どうせ俺には扱えぬ代物だろうしな」
宝物庫を出たところで、ホムンクルスは七ニ柱の壺から最速の魔人セーレを呼び出すと宿に戻ってきた。
「うーん、行き帰りもセーレに乗せて貰えば楽ちんなんだけどなあ」
『ある程度力のある結界が活きていると、セーレクラスで乗り込む訳にはいかぬのだ。
これも魔導の理《ことわり》ゆえ、我慢するのだな』
街に戻ってから食事や携帯食料その他必要雑貨の補充などの所用を済ますとキールは宿に戻ってすぐ毛布にくるまって寝てしまった。
いや、寝ようとしても一睡も出来ない、謎は深まり喪失感と憤りで気が高ぶって眠れずに静かな身じろぎが繰り返される。
『キール、眠れぬのか。気晴らしに女でも抱くか?
まあ、言うても我が出してやるのはいずれも魔人ではあるがな。
ものは試しだ。アン出て来て、この情けない男を慰めておやり!』
ホムンクルスが右耳に付けたピアス、七ニ柱の壺からピンク色の煙が出て渦を巻き、やがて消え去ると見目麗しい美女があらわれた。
『ご主人様、アンドロマリウスは久々の召喚千年一日の思いでお待ちしておりました。何なりとお申し付けくださいませ』
『うむ、アン済まぬがそこの振られ男を楽しませてやってくれ』
『かしこまりました。さあ、殿方は何も気になさらずにわたくしめにお任せあれ』 いつのまにやら、身体が透き通る赤い薄物に着替えるとキールのベッドに潜り込むアンドロマリウスと、たじろぐキールの物音が宿屋の一室で秘めやかに続いた。