コンビニ強盗に巻き込まれて不慮の死を遂げた俺は、謎の女神?エンドロ・ペニーによって異世界(地球の裏世界)に転異させられた。最近知ったことだが、外装がプラスチック素材で出来ている実銃も世の中にあるという事実を知って、生まれ変わったらそういうオタクの知り合いも作ろうと誓ったりする。臨機応変、酔狂も水鏡でさえ役に立つ日は来る。
それは、さておき。
何故か転移前の世界で飼っていたネコ(本来はシャム猫なので体毛のほとんどが黒というようなことは無いのだが、遺伝形質の異常でほぼ黒猫状態)までもが、異世界に転移してきた。俺たちは、人家を探し、森を抜けたところに建つ館の主人に取引を持ち掛け、何とか協力を取り付けることができた。
さあ、俺の戦いは今始まったばかりだ。待ってろ、必ず失った全てを取り戻してやる!
昨日の夕食のあと、館の主の計らいで一晩身体を休めるとともに、今後の話の詳しいことは、今日の昼食時にすることにした。それは、俺の世界とここでの大商いの話をよりうまく説明できるようにとの心配りであった。
「ふむ、そのスマートフォンとやらと言う魔道具で、遠くの者と会話ができるのか。それ以外にも色々機能がありそうだな。何とも懐かしいような不思議な気分だが、まあ、それは兎も角、昨日の話の続きをしようか」
「はい、主さん。今朝いろんな人たちが、この館に野菜や、肉とかを置いて行ったけど。もしかしたら、あれは領主への貢ぎ物、税金ですか?」
「ふっ、我は竜君の主ではないからな。まあ、ジョージタウンの領主だから、以後ジョージと呼んでくれ。そして、さっきの答えはそのとおりだ。商人などは金貨や銀貨などの貨幣を使った商取引もしているが、地方の一般庶民はまだ物々交換が主流なのだよ」
(現在、ここでは物々交換が主流か。なら、話の流れから貨幣と紙幣について話すとするか)
「わかりました、ジョージさん。ですから、地方と首都とか、もっと遠く、他国との貿易などに重い金貨や銀貨などを使用していては不便なので、金貨や銀貨などと同様の価値を国が保証して、紙に印刷する。こうした紙幣で取引を行えば金貨を使用するのに比べて楽に大量のお金を運べます。ここで押さえておきたい点としては、お金とは、物(場合によっては役務)と物を交換するときの道具ということです」
「ほう、なるほど紙に印刷した金や銀などの重さに応じた価値を国が保証するのか。そうすると弱小国の紙幣は、あまり信用されないのではないか?他にも、良からぬ奴が偽の紙幣を作ったらどうするのだ?」
「そうですね、国の信用、つまり軍事力によってその国の紙幣の価値が上下します。偽札については、特殊なインクを使って光を当てると隠された文字や記号、絵が浮き上がるようにするとか。一連番号を印刷するとか、一応の対策は可能です」
「なるほど、しかし管理が面倒だな。そのために専用の事務員を雇うとか、印刷工房を新たに作るとか結構な手間だな」
「ええ、だから。紙幣からお金の情報だけをやり取りするようにするんです。その情報だけのお金が、俺のいた世界では仮想通貨と呼ばれていたんです。俺の儲け話では、この仮想通貨を使います」
「ほほう、お金の情報だけをやり取りするのか。それなら、お金の運搬に警備等も必要ないから大分助かるな」
ふう、理解が早くてこっちも助かる。
「ただ、問題があります。俺のいた世界では、先ほどのスマフォも含めて、電気を動力にしていましたが、この世界では電気を安定して供給する手段がないのです。そのため、ジョージさんの錬金術の技を貸していただきたい」
「ふむ、できることなら力を貸すぞ。だが、面倒なのは嫌だからそのあたりのことはうちのネコにやらせので、こき使って良いぞ」
「わかりました、概要をジョージさんに説明して了解を得たうえで、細かい実務面や設計についてはジョージさんの所のネコさんにお願いする形でよろしいですね?」
「ふむ、そのように取り計らいなさい。ネコ、聞いていたな?この件については、竜君の指示に従って働けよ」
よーし、大筋合意を得られた。これで、この世界を仮想通貨で席捲してやれるぞ。
「マスタ、猫の手も借りたいほど忙しいのに、また仕事を増やしちゃって。早く、労働基準局がこっちの世界にも出来ないかしらね」
何処かから、シャム猫の嘆きが聞こえたような気もする。が、気にしたら負けだ。