メンヘラ女って、めんどくさいね。
「ご主人様ァ、もう死んでしまいたいのでございますわ。わたくし、これでも魔界での序列は上から数えた方が早いのに底辺のアンドロマリウスに後れを取るとか。
ええ、どうせわたくしなんか、地獄でも現世でも碌なものにならない落ちぶれ貴族でございます。後生ですから、もういっそ止めを刺して、塵芥に変えて欲しいのでございます」
裏庭で山羊の角を生やした金髪の女性が女々しく、自分より小柄な青いドレスの少女に懇願している。
「ふん、そんなメンタルの弱いことでこれからどうするのよ!あんたには、これからたっぷりと働いてもらわなきゃならないんだからね。そんなに、アンに負けたのが恥ずかしいなら次の働きで示してもらいたいものだわ」
「ふっ、吾輩の攪乱戦法に引っ掛かって実力も出せぬうちに敗れた弱者に救いの手などないわ!」
小太りの禿親父が、自慢げに嘯《うそぶ》いていた。
「セーレか、一応昨日の戦闘では役に立ったことだし。褒美を取らせることにするか。今日一日そのロノヴェを貸し与えるから好きなように使って良いぞ!」
「ソローン様、好きなようにとは、どんなことを命じてもよろしいのかな?どのようなことでも?」
「まあ、そうだ。ロノヴェはメンタルが弱いから少し鍛えてやってくれ。ちょっとおぞましいくらいの者に屈辱を味わわせられれば、少しはましになるだろう?」
「ははあ、このお役目吾輩謹んでお受けいたします」
「ああ、ご主人様ぁ、殺生でございます。このような下賤の小太り禿親父の慰め者にされては、わたくし生きておられませぬでございますぅ」
ロノヴェは涙目でソローンを掻き口説く。
「うるさい、もう決めたことだ。アン、街に行くぞ!」
「はい、ご主人様」
ソローンとアンドロマリウスは足早に門へ向かった。
「ふふ、ロノヴェと申したか?その方、何か申すことはないか?」