「ワフードさん、早速で悪いが、一つやってくれるかい?」
「おう、なんでも来いだ。で、何が欲しい?」
ワフードさんは、新たな試みに期待を膨らませてるようだ。
「最初なんで、まずは簡単なものから。直径二ミリの穴の開いた管《パイプ》を、そうですね長さ一メートル分作って下さい」
「ほう、いきなりそれを造れと。しかも簡単だとー。それに細かな注文を付けるわりには太さの指定は無いのか?」
「ええ、最初なので造りやすい太さで結構です。ただ、曲げたり加工する必要があるのであまり太すぎるのは困りものですね」
ワフードさんは、腕組みしたまましばし瞑目すると、作業を始めた。
黒い塊を棚から数個取りだし炉で溶融させ、一つの塊にしたものを金床に置いて槌で一本の棒に仕上げる。
出来上がった棒をまた炉に入れて赤熱させると、槌で叩いて長さ一メートルの延べ板に整形する。
延べ板に槌を叩きつけていくと、不思議なことに板が丸まって管に変化していく。力の掛け方だけでは説明できないこの世界の鍛冶師の力の一端が俺の前に披露されていく。
「すごい、技術だ。これなら、本当にエンジンさえも作ってしまえるだろう」
「ほれ、注文の二ミリの穴が開いた一メートルの管だ。太さも三ミリにしてある。こんな感じでいいのか?」
「ええ、十分です。あとは、宝石の加工も頼めますか?」
「おい、うちは鍛冶屋だぞ。宝石の研磨とかカットは宝石屋に頼めよ」
唖然とした顔のワフードさんに、光の位相を揃えると力を増幅できるというレーザの原理を説明して宝石をレーザ装置に組み込む台座の加工と増幅するのに必要な反射鏡の製造をお願いした。
「ああ、なんとか理屈はわかった。で、その赤い宝石を中央に配置して宝石の左右に反射鏡を取り付けるんだな。それで、光を増幅するとなると熱に強い箱を拵えるでいんだよな?」
「はい、そのとおりです。あと、反射鏡は出来るだけ歪みのない滑らかな表面に仕上げて下さい」
「まあ、なんとかやってみよう。いつもと勝手が違うがな」
ぶつぶつ文句を言いながらも、ワフードさんは金属製の箱と俺が持ち込んだ宝石を固定するための台座の制作に掛かってくれた。
「よし、出来たぞ」
「おお、さすが仕事が早いや。じゃ、早速試させて貰うよ」
俺は、スマートフォンを取り出すとLEDを点灯させて即席の光源として赤い宝石、多分ルビーだと思われるに照射した。ルビーから全方位に放射される赤い光が反射鏡で集められ一際赤く輝く光になって箱から照射された。
「おお、綺麗なもんだな」
「ええ、ワフードさんの精緻な技術の賜物ですよ」
ここにレーザー発振装置の試作機が完成した。難易度の高い製品を卓越した鍛冶技術で製品化してしまう鍛冶屋のワフードさんを見出すことが出来て俺の野望が現実味を帯びてきた。