バージ・カリファのスカイラウンジで虹色に光る謎の石を掴んだ瞬間、眩い光に包まれた俺は、ここに居る。何処だここは?
「遂に、ドライブキーを手に入れましたね。リュラーン、弟にして愛する夫」
「うん?なぜ、キリュウ、月に居るはずの姉さんがいるんだ!」
月の女王キリュウ・グツチカ・シトゥールが、蕩けるような笑みを浮かべる。
「アラクとの勝負に勝利し、見事ドライブキーを手にいれた其方こそ私の誇りですよ、リュラーン」
キリュウは、俺の前にある円盤を指さすとそこに虹色の石を置けと言った。なんでもそれが始動の合図なのだそうだ。
俺が円盤の中心にある窪みに虹色の石を置くと、室内の明かりが点いた。パネルには謎の象形文字が浮かび上がるが当然俺には読めるはずがない。耳元で、『インストール・ランゲージ』という意味の女性の声が聞こえた気がするとパネルの表記が読めるようになった。
「ふーん、ここで操作ができるのか。結構凄いけど、いつの間にこんなものが出来たんだ?」
『この星の単位で約三八憶年ほど前のことです。』
アラクに似た顔の少女が俺に教えてくれた。
「君は?」
『私はアルドと申します。この船の制御システムです。そのドライブキーを手に入れた方がこの船の主です。ですから、何でもお申し付けくださいませ』
「船ということは、どれくらいの距離を移動できる、速度は?」
『距離は無限に、速度は光より速く。お申し付けのままに致します』
「ふーん、そうか?では、試してみよう。月まで飛んで貰おうか?」
『いいえ、月には行けません』
「なんだ、偉そうなことを言って。月まで飛べないなんて、俺でさえ月探索をやり遂げたのになあ」
『いいえ、月はこの船の一部ですので望むなら一瞬で転送できます故、この船が態々航行する必要がないのです』
俺は、非常に驚いて変な声が出た。が、アルドは特に触れずに待機している。
「アルド、この船の全体図をモニターに表示してくれるか?単位はメートルで頼む」
『桁数が煩雑になります故、航行形態を単位はキロメートルで表示します』
流石に優秀なAIだ、俺はモニターを見て再び驚いた。太陽系丸ごとが、宇宙船として表示されていた。居住区画は地球で、船体防衛のために月を半分にぶった切って異世界の月と合わせて四体を重力の釣り合う位置に配置するようだ。太陽は、環境管理と航行エネルギーを担い、緊急時の予備用に木星が用意されていた。水星や金星は観賞用のオブジェなんだそうで航行中に失っても影響はないそうだ。現にアステロイドベルトにあった惑星は粉微塵になっているが、特に大過なく数十億年が経過しているらしい。
「うーん、なんか特大の設定山盛りを見せられたみたいで頭がくらくらするな。これが伏線回収という修羅場なのか?」
『焦らずに時間は無限にあります故』
「そうだな、一先ず考えたいので仲間と合流したい。ここに戻って来るにはどうすればいい?」
『それでしたら、ドライブキーをお持ちください。転送後、お戻りの際は強く私の名を思い浮かべて下さいませ』
そう言って、アルドはドライブキーを持って行けと俺に示す。俺が虹色に光る石を持つと変化して、右腕に虹色のブレスレットが装着された。これで帰って来たくなったらアルドを呼べばいいみたいだな。
「じゃあ、アルド後は任せた」
『はい、いってらしゃいませ』
俺は右往左往しているネコさんとムガットの待つ、スカイラウンジに戻った。