紅の破壊神(仮称)、スカーレットは斃れた。地球を何百回も破壊可能だと言われた核兵器等を、環境破壊に邁進する大陸を共に環境に優しい黄金に変えるというエコな解決が成された。
「しかし、南極の氷が拡大して全休凍結とかも有り得るかもな。日本をはじめとした残された島々や鋼鉄の箱の住人に活躍に期待だな」
「竜さん、一応この星の現状を確認した方が良いでしょう。西城斎酒《ゆき》が何処から来たのかとか不可解なことが多すぎるわ」
最近では珍しく、シャム猫の姿で食後の毛づくろいをしていたネコさんが地球の調査を提案してきた。一時期、百億人近くいた人口も数億人まで減少し平和な時代が訪れたようにも見える。だが、なんとか温室効果で全休凍結を免れていた地球は、二酸化炭素の毛布をはぎ取られ千年もすれば氷の惑星になる運命が待ち構えている。
「正直、スカーレットがいないこの惑星に興味はもう無いんだが・・・・・・ 一応、地球一周してみるか」
「アン、索敵モードだ。地球一周空の旅、出発。ムガットも気づいたことがあったら教えてくれ」
『・・・・・・ ムガット』
俺は、探し物が得意な魔人アンドロマリウスに魔導的な探知を命ずると、黄金の矛盾《スィラーフ・ディルア》、再び八メートルの黄金の鎧人形に吸い込まれると飛び立った。高度一万メートルほどで軽快に地球を回る。地球一周と言って始めたが、アンからコースを変えないと正確に測定できないと言われたので、合計七周ほどを一時間で済ませた。「うーん、ご主人様。いくつか反応がありましたが早すぎて処理できません。目が回りそうです。ネコさんに、丸投げしますね」
涙目のアンドロマリウスから魔道の検出データを受け取ったネコさんが、不思議な魔道器具をフル稼働で処理してくれた。
「竜さん、西城斎酒の魔導パターンに近いものが極微量に検出されたのがドバイの高層ビルとエジプトのピラミッド、あと日本列島にも。あれは・・・・・・ 名古屋城ね。そのなかでも一番強い反応は、ドバイね」」
「て、いうことは、西城斎酒は名古屋嬢(名古屋出身のお嬢さんのこと)の可能性があるのか?まあ、それは置いといて怪しいドバイから見て行くか」
俺たちは、斎酒の魔導パターンに導かれて、ドバイにある世界一の高層ビルで高さ八二八メートルのバージ・カリファに着いた。現在は一00メートル以上海面に没しているが、そこの建築当時、高さ五五五メートルのスカイラウンジに反応があった。
黄金の矛盾の右拳で、窓を突き破ると俺は巨大な鎧から離脱し床に降り立った。豪華なテーブルの一つに虹色に輝く拳大の石が浮かんでいた。俺が何気なく近づき、手を触れると・・・・・・
「待って、竜さん。不用意に触らないでー」
「うわー」
『・・・・・・ムガット』
虹色の光が眩い程に輝度を上げ、遂には視界が真っ白になった。
月の裏側で、主従がお茶を飲みながら地球の光景をモニターしていた。
「どう、アラク?我が夫の勝ね。流石は私の弟、やる時はやる子なのよ。ほほっほ」
「確かに、多少強引ではありましたが・・・・・・ 地球円にして三八兆円を遥かに超える百兆円以上を短期間に稼ぎ、あまつさえドライブキーを手に入れた以上は、勝者の条件を満たしたと認めるしかありますまい」
「なんと、負けたのに嬉しそうじゃの?」
「ようやく、キリュウ様をお任せできる。数十億年、生きていて。こんな、うれしいことが有るのですね!」
「なんだか、厄介者を押し付けるみたいな喜び方ね。私はとっても不愉快な気がいたしますわ」