ドバイの地上二百メートルに位置する展望レストラン、アルムンタハで独りの東洋人の美女がくつろいでいた。普段は観光客で途切れることのない喧騒も、貸し切りの為従業員がたてる控えめな物音くらいしかなかった。
(ふふ、なかなかやるじゃない。だけど、こうなると次は彼らに警告してあげなくてはね。例の亡くなった上院議員あてにメールでも打っておけば勝手に詮索してくれるわね、本当にいい時代だわ)
「コーヒーはもう結構よ」
たった一人の客が去ったため、レストランは逆にざわめきだした。たった一杯のお茶の為にレストラン全体を一日借り切ったあの客はいったい誰だ、何処の富豪だと詮索するのは無理も無いことだろう。
「何だって、スカーレットが奴らに復讐したいって」
「そう、彼女は気にしていたのよ助けられてから、ここでは竜さんの何の助けにもならない自分が重荷なるのじゃないかと。それでこの間から彼女は、アスタロトに魔導の手ほどきを受けていたわ。昨日の波動を見る限りかなりの手練れに成長したみたいね。まあ流石は人形堕ちしていても大魔神ね、只の人間をこの短期間で魔導師に育て上げるとか」
「うーん、そんなことは気にする必要はないのにな。まあ、アスタロトの手腕については今更だろう。何せ、ネコがあそこまで化けたんだからな」
「そう?ネコはあれでポテンシャルは高いのよ、他人に評価されないだけでね。前世で報われない呪いでも受けてるのかもねぇ。竜さんに言っても仕方ないけど、貧乏くじ引いてるのよ彼は・・・・・・」
ネコさんの瞳が深いブルーに輝く、きれいだなあ。
「はは、今日の紅茶も美味しいな」
「ああ、それはただのダージリンよ。で、結局彼女の復讐はやらせるのね」
「そうだな、やれるのなら。向こうの世界を吹っ切るためにも、いい切っ掛けにならだろう。でも、彼女にできるのかな?」
「そこは、我の力を信頼してもらおうか!」
いつの間にか、研究室に磁器人形がくつろいだ様子でコーヒーを飲んでいた。
「アスタロト、いつの間に。その豆は高かったのよ」
「ふふ、まあ良いではないか。そうだな、三日後の新月の夜に弟子のお披露目といこうか。なに、我に掛かれば異界の門を叩くことなど造作もないわ。その間に、あ奴にもっと派手な魔道を授けてやるから、楽しみにしておれ」
「それじゃあ、スカーレットのことよろしく頼むぞ」
(えっと、地下の金属を集めた後に、温めるのか・・・・・・)
「闇《ザラーム》金の精《ダハブ》とりあえず鉄とかをその辺に集めてね。闇《ザラーム》炎の精《ショール》、どんどん炎を燃やしてね」
(で、鉄を急冷すると・・・・・・ 水でも掛ければいいのかな?)
「闇《ザラーム》水の精《マイヤ》、たっぷりの水で燃えたぎる鉄を冷やして」
(ふう、出来たみたいね)
スカーレットの目の前に、何の変哲もない鋼鉄の箱が現れた。
「よっしゃ!じゃじゃーん、鋼鉄の箱完成です!」
「ふむふむ、できたようじゃな。明日は、新月の夜じゃ、その方の復讐にまたとない夜となるであろう」
出来上がった、箱を満足げに見やるアスタロトであった。