さてと、マスターのご命令は再び七十ニ柱の魔人を従えて魔導の神髄を示せということよね?どうしたものかしら、ねえ・・・・・・
『とりあえずは、アン!
それにセーレ、とっとと来なさい!』
一陣の風が吹き抜けて、一人の女がホムンクルスの前に跪いた。
『ご主人様、御前に控えております』
やや遅れて不満げな態度を隠しもせずに魔人が現れた。
『いつでも、行けますぜ。どうせ鉄砲玉で使い潰されるんでしょ?
いつだって俺の周りの奴等だけが美味しい思いをして、俺だけが割を喰わされるんだからなあ。もうどうなったって構うもんか!
やってやる!』
いつも通りの信頼できる家臣と被害妄想狂の下僕の態度に少し緊張がほぐれる気がした。
『じゃあ、諸悪の根源であるバアルを殲滅しておしまい!』
『御意、蛇の嵐《サーペントストーム》』
魔人アンドロマリウスがそれまでの鬱憤を晴らすかの如く愛用の大蛇を振り回すと暴風が吹き荒れ魔人バアルのもとに殺到する。
『どうせ使い潰される運命なんだ俺なんか、えーい超光速衝突《スーペリアルライトニングコリジョン》!もういちど、超光速衝突!おまけにとどめの三重超光速衝突《トリプルSLC》!』
自棄になったセーレの超光速の体当たりが二度、三度と魔人バアルに襲い掛かる。
『ぐはっ、何故?ホムンクルスの手下の攻撃力が格段に上がっておる!
この魔界一の魔力を誇る我が下位の魔人どもに押されるとは。
ふふっ、下等な人間が弄り倒した人形の力か?これだから地上界は面白い。
ふふっ』
魔人バアルは凄まじいホムンクルス配下の魔人二柱の攻撃を受けてもまだ余裕の表情を浮かべて皮肉気な笑いを顔に張り付けている。
蜘蛛の体に三つの頭が、それも異形の頭を持つ魔界最強の魔人バアル。
人間界の欲に最も忠実な王冠を被った人頭、長い舌で獲物を仕留める蛙頭、謎めいた可愛さを持つ猫頭、その三つの頭が同時に呪文を唱えた。
『この世は金だ、金こそ力《マネーイズパワー》!』
『すべて喰らってやる、喰らえない、人生なんていらぬ《ノーイート、ノーライフ》!』
『もう、面倒くさいにゃあ、適当に死んでくれにゃ《イージーゲーム》!』
三つの極大魔法が二柱の魔人アンドロマリウスとセーレを蹂躙する。考え得る全ての欲望の海に投げ込まれ、肉体はおろか精神まで喰らい尽くされ、何度も何度も簡単に殺され続けた。
『うっ、うわー。やめてくれー、俺の魔人生は不幸の連続だぁ!こんなに満たされず、喰らいつくされ、いいように虫けらのように叩き潰され、屍もゴミの様に捨てられ・・・・・・
それが、また繰り返される。もう、嫌だ!
いっそ殺せぇ、いえ、お願いですから殺してください。お願いします!』
魔人セーレが泣きながら、慈悲を乞うているがそもそも魔人たちに慈悲のような弱点などあるはずも無く、ただ延々と苦痛が続くだけだった。
『情けない、これしきの事で泣き言を言うとは、ましてや敵に慈悲を乞うなど言語道断、ええい口惜しいあ奴らの魔導に自由を奪われ外道セーレの息の根を止めてやることすらできぬとは。
無念です、ご主人様ぁ!』