よく言われるが蝙蝠野郎とは、あるとき誤って地面に落ちて鳥嫌いな獣に捕らわれ殺されそうになったとき「私は鳥ではない、ネズミです」と言って難を逃れた。またあるときネズミ嫌いの獣に捕まった蝙蝠が「私はネズミではありません、鳥なんです。このとおり翼が有り空を飛べますから」と言って再度難を逃れたとかいう嘘だか本当だか分からない昔の奴隷の与太話だったっけ。
まあ情けないことに魔界序列三十三位の俺としたことが今の立場は、まさしくその蝙蝠野郎なんだが・・・・・・
『ガープ、今日の警護はお前に任せたからね。ほんとにどこをほっつき歩いてるんだか番犬の仕事も出来ないのかねナベリウスは、まったく!』
『承知しました、俺はあんな犬っころみたいな役立たずじゃないですからお任せを』 俺はキュルソン様に深々と礼をすると夜闇に溶け込んで警備任務についた。まあ、夜間警備は俺の能力からいったら打って付けだが番犬代わりにされるのは少々プライドを傷つけられるのも事実だ。だが、今の俺にはそれがいい。
所詮裏切り者だしな・・・・・・
『ああ、俺だ。そうだ、的は奥に主人と籠っている。そうだ、気付かれていない。 ああ、分かった』
「ああん、キュルソン姉さまぁ」
『ふふ、可愛いことだ。小鳥ちゃんはどこから食べて欲しいのかしら?』
「そ、そんな意地悪言わないでぇ」
キュルソンの手管に身を震わせて歓喜に堕ちていくシェーラの嬌声がかすかに漏れ聞こえる。
突然の爆発音で抗争の幕を開けた。
「きゃあー!」
『何事だい、ガープ!何をしていた?』
『ふっ、ふっふ。
あるときは、ソローン様の下僕。
またあるときは、キュルソンの手下。
しかしてその実態は、アン様の犬。ガープ様だ!
超音波剣《ウルトラソニックブレイド》!!』
ガープから繰り出された不可視の刃が店主の部屋のドアを壁ごとエックス字に切り裂いた。原理は超音波の周波数で振動された物質が抵抗を減らすというものだが、何でも切れるという思い込みが威力を増しているのは今更であった。
『アンドロマリウスごときに尻尾を振るとは蝙蝠にもあるまじき所業っ!
ええい、魔界序列四十八位ハゲンティ疾くと現れよ。今すぐ裏切者の蝙蝠野郎を始末しておしまい!』
『かしこまりました、キュルソン様』
二本足で立つ角を持った牡牛の身体に鷲の翼を持つ魔人が翼を広げてキュルソン達を庇ったため翼から羽が何本も千切れ飛んだ。
『くう、今度はこちらから行くぞ!』
翼をはためかせるとハゲンティが猛スピードでガープに突進して自慢の鋭い角で胸を串刺しにする。
だが、ガープも蝙蝠の翼を展開しハゲンティの猛攻をかろうじて躱すと天井を突き抜け外へ逃れた。
『へへ、残念だったな俺様だって飛べるんでね』
ドッガーン!
『え?ハゲンティの気配が消えた、まさか?
おい、ハゲンティこっちに来て報告しな。どうなっているんだい!』
キュルソンがどす黒い左耳に付けたピアスに手を当てて喚いていたが、何も変化は現れなかった。
『なるほど、それが七ニ柱の壺《真鍮の壺》の偽物かい?』
一陣の風が通り過ぎた後には、キュルソンの左耳たぶの穴がはっきりと見えていた。
『くっ、お返しよ!アンドロマリウス、そいつはお前ごときが扱える代物じゃないんだよ!』
『ふーん。まっ、問題ないさ。こいつを持ってないあんたが他の魔人を呼べないならね。えいや!』
アンドロマリウスは腕に巻いた大蛇を解くと裂帛の気合とともにキュルソンを切裂いた。右腕と左脚を失ったキュルソンが無様にひっくり返った。
『痛っ。こ、これで勝ったと思うなよ・・・・・・』
「お、お姉様の手足が!」