美しい少女は、微笑みを浮かべながら右手を優雅に前に、アンドロマリウスに 向かって差し出すと静かに言葉を漏らした。
「私の趣味じゃありませんね。まあ、失せモノ探しには打ってつけかも?泥棒の神とやら私に跪いて忠誠を誓いなさい。そなたの真名を使ってな!」
アンドロマリウスは、驚いた。危うく腕に巻き付けていた蛇を落とすところだった。
な、何を考えているんだ?真名を使って忠誠を誓えば絶対の隷従する立場になるということ。どう考えてもあり得ないことだった。
「本気で言っているのか?お前は、ば、馬鹿だろう。真名を使ってわざわざ隷従の誓いをするとか。誇り高き俺様が、たかが人間ごときにする訳がなかろう。身の程をわきまえぬ輩よ、お前の魂ごと飲み込んでくれるわ!」
アンドロマリウスは、右腕をソローンに向けた。その右腕に巻き付いていた大蛇が伸びて魔法陣の中の少女に大きく開いた咢あぎとが迫る。 ソローンは、魔法陣ごとアンドロマリウスの蛇に飲み込まれてしまった。
北の大地にはアンドロマリウスと『ソローンの造り手』しか立っていなかった。
「ふん、こざかしい小娘が。口ほどにもなく、あっさり飲み込まれるとは。と、いうことはお前が小娘の師匠か?魔導士!」
アンドロマリウスの右腕に巻き付いた大蛇から毒液がほとばしり、魔導士へ降り注ぐ。
『ソローンの造り手』は、面倒臭そう左手で軽く払った。毒液は、北の大地をとろかせたが当然、魔導士には効かなかった。
「これで、使い魔が手に入ったか」
『ソローンの造り手』は、静かに笑う。
天地が逆転していた。アンドロマリウスは己の内側から自分の姿を眺めるという珍しい体験をしていた。なぜか自分は少女に跪き、虚ろな声で隷従を誓っていた、それも真名を使った一時的ではなく、永続的な隷従を誓っていた。
『我、アンドロマリウスは謹んで地獄の三六の軍団と共に、ソローン様に永遠にお仕えいたします。』
「うわー、なぜ?俺様がこんな小娘に隷従を誓っているのだ?」
「まあ、まさか。あんな攻撃が私に通ると本気で思っていたの?おバカさんね、まあ、馬鹿な手下ほど可愛いというもの。これから、こき使ってやりますから。私たちには、見つけたい物があるのよ。盗賊の神でも使えるものは、使っていくから。よろしく、アンドロマリウス、私はソローンよ」
少女は、跪くアンドロマリウスに微笑んだ。
「ははあ、ソローン様」
「よし、ソローン。目的は果たした、館へ帰ろう」
「はい、マスター」