(くっ、力が入らない・・・・・・ そういえば、こういうときは適当な手駒を使って) どろん、白い煙がお約束の擬音とともに一瞬現れたと思ったら黒装束の怪しげな人影が音も無く走り去って行った。その口には巻物が咥えられていたようだった。 (な、何やつ?)
『サミジナ参上!
えっ、ご主人様が呼んだのではなかったのですか?拙者が早速敵の秘密を探り当てて見せますよ。
しばしのご猶予を、にんにん!』
微かな応《いら》えが木霊のように耳に届く、不思議な技だ。まるで、魔法というよりも鍛え抜かれた体術?いや忍術のような?
黒装束と覆面で隠していても異形の頭はとても人間には見えない、まるで馬かロバのような・・・・・・
(馬の姿で、確か客人が昔見せてくれた異界の諜報員、あれは『忍者』と呼んでいたような?あの頃、忍者にかぶれていた魔人が居たわねえ魔界の位階四位、三十の軍団を率いる大侯爵サミジナ!
あの者ならば、秘密を暴いてくれるかも知れぬ。もう少しの辛抱か?)
黒い影が疾走する、誰の目にも留まらず痕跡を悟られずに駆け抜けて行く。サミジナの動きに合わせて木の葉が舞い、風が吹く。故に魔人サミジナの行動を気に留める者はいなかった。
『ふむう、あちらとそちらと、そしてここでよかろう。
我、魔界の大侯爵サミジナが命ずる、我が主人ソローン様に仇なす悪しき霊よ。疾くと現れて我に汝が施した悪行を告白せよ《コンフェッション》!』
有象無象の闇の住人、魔界の塵芥が集い戯れる。光と闇の舞踏会が暫し続き、秘密の開示に用のない者共を魔人サミジナが背負った片刃の剣で切り払っていく。
やがて強い力を持つモノが集いまた舞う。
これほどの魔力の氾濫が起こっていてもソローンに執着しているシャム猫は気付いたそぶりも見せない。魔人サミジナの忍術をアレンジして張った結界が功を奏したのか、それともソローン以外は眼中に無いのか?
どれほどの刻が経ったのか魔人サミジナの面前に炎が生まれ、そして燃え尽き灰になり、その灰の中から炎の鳥、魔人ポエニクスが現れた。
『我の一四六一年振りの安らかな眠りを妨げるのは誰だ!』
『なるほど、その方が我が主の敵であるシャム猫に力を貸した下手人か?』
『な、何を根拠に?』
狼狽えた炎の鳥がそれでも追及を逃れようとする。
『笑止、我の術により己の魂がここに誘き寄せられたことこそが動かぬ証拠よ!』 『くっ。申し訳ございませんぬ。
だが、奴に手を貸したことなぞございませぬ。あの者が勝手に我の羽を盗んで使ったまでのこと。どうか、穏便なご処置を請い奉ります』
(ほう、なるほどのう。そういうことであれば・・・・・・)
『お主には、一つやって貰わねばならぬことがある』
頭を垂れて畏まる魔人炎の鳥ポエニクスに沙汰を告げる魔人サミジナ。
『ははあ、仰せのままに・・・・・・』
(敵の秘密は探り当て申した待っていてくだされよ、我が主よ・・・・・・)