魔人アモンの両腕から繰り出される当たれば必殺の魔剣の剣戟をソローンは緩やかに躱して見せた。胸中では、腹心であり友でもあるアンドロマリウスが今もなお凌辱の憂き目に合う様を冷静に見ることなど出来ない所を心に刃を突き立て耐えて取り乱さずにいた。
『ふふ、世に聞こえた魔界随一の剛の者と謳われし魔界序列七位の魔人アモンも存外たいしたことも無いものだな』
荒い炎の息を周囲に撒き散らせながら、アモンが吼える。
『ふん、口先だけは立派だが所詮は造り物の人形よ。我らに歯向かう暴挙も知恵の無さ故か、力も知も無くして我らに勝てる道理もあるまい!』
裂帛の気合のもと二振りの魔剣を一つにして、大上段から高速の斬撃がホムンクルスの頭をかち割った。 『ほら、見よ。ふぁっふぁ。・・・・・・』
だが、事実はアモンを両断する巨大な剣が地面に突き立ち、左右に分かれるアモンの血肉。
『・・・・・・ そうか、ザキエルが簡単にくたばったのはソローン、お前に力を譲ったためか?』
『まあ、好きに考えなさい。漸く邪魔者抜きで相手できるわね、魔人バアル!』
ソローンは右手を憎き魔人バアルに向け、魔導の力を開放した。
極高温のプラズマが、魔人バアルの胴体から生える三つの頭の一つに命中した。巨大な蜘蛛の胴体から千切れ飛ぶ頭は、空中で胴体と四本の足と尻尾を生やし魔人アモンの二つに斬り裂かれた死骸の下に四つ足で着地した。
四つ足の獣、猫が美味そうに魔人アモンの死骸を平らげていく。
(ふふ、リサイクルは重要よ ・・・・・・)
何故だか、猫が意味のある言葉を話したようだが聞いた瞬間に記憶から薄れてしまう不思議な感覚でソローンはつい、猫の食事風景を注視してしまった。
戦闘中であることなど特段気にも留めずに、猫は優雅にアモンの死骸を全て食べ尽くすと軽やかにジャンプしてバアルの吹き飛ばされた頭の有った場所に着地するとその胴体や足を溶かせながら三つ目の頭に変化していった。
『魔人の中には、力ある魔人を食べることによって力を得る者もいると聞くがお前もその手合いか、バアル?』
『ほほう、気になるのか?まあ、だからと言ってお前に教える義理も無い。好きに下種な想像でもするが良い、資源は限られておる無駄にするのは愚かなことよ』
バアルの三っつの頭、蛙、王冠を被った人間そして、当初は靄が掛かったように形がはっきり見えなかったのだが、それが今やはっきりと認識できるようになった猫の頭が偉そうに語ってみせた。
『たしかに、倒してしまえばそのようなことはどうでもいい!』
ソローンから繰り出された左右のキックがバアルの胴体にびっしりと生えた剛毛を刈り取る、だが肝心の体には紙一重で躱されていた。
『そろそろ、形を付けようかのう。”力ある言葉”』
バアルが三つの頭で唱えた呪文の効果か、高温の炎が、極寒の冷気が、真空の刃が三方向からソローン目掛け殺到した。
わずかに躱しきれずに、切られた髪の毛が風に舞う。
『くっ、・・・・・・』